続 遠い国の返事 第三部 完結編 中
KYO
第1話 続 遠い国の返事 中 どこへ行くの?
ニャーモさんとメールボトル19は関西国際空港に着きました。広い、間抜けなほど広い空港です。かなりの数の旅行客がいるにもかかわらず、混雑している感じがしません。 チケットを受け取ってトランクを預けて、さあ、保安検査所です。
「ねえ、乗るときはロボットするのよね?」
「そう、乗るときは絶対ペットボトルはだめだからロボットよろしくね。」
メールボトル19は保安所の係員の前でロボットになりました。ボトルさんは前よりたくさん動きを覚えたので本当にロボットみたいです。係員さんは納得してすんなり通してくれました。ニャーモさんも今度は落ち着いていてニコッと笑って通り過ぎました。
「良かったね、簡単だったね。次はまた出国審査。ここは静かにね。」
出国審査もすんなり通り、ずらっと並んでいる搭乗口の処にきました。
関西国際空港は片側だけの搭乗口でずぅーと長く続いています。その全面が全部ガラス窓になっていてとても明るく広々しています。窓からはあちこちの国の飛行機が見えます。それぞれ機体に書かれているマークも違い、飛行機の色も違って見ていて飽きません。
「えっと。・・・28番ゲートよ、あっちだね。」
出発のゲートに着きました。手紙さんとキリエさんはまた電光掲示板を見ています。
「出発KIXで目的地DPS だって・・・そこってどこかしら?」
「アフリカのどこかの都市。」
「キリエちゃんたらまたそんな事言って。今度はサムハさんに会いにいくのだからアフリカなはず無いでしょ。インドネシアのどこかの都市よ。ヘルシンキに帰る訳でもないわ、HELって書いていないし。」
メールボトル19は空港コードによほど興味を持ったようです。
「サムハさんのところなら、スラバヤだから・・・えっと、SRBとかになるよね。」
「でもアテンダントさんが言っていたじゃない。新しい空港はアルファベットが足りなくて違うのつけるって。」
「だけど、DPSだったら最後のSしかないよ・・・これどこ?ニャーモさん教えて。」 「あのね、デンパサール国際空港って言うところよ。」
「私、スラバヤに居たときもそんなお名前聞いたことがなかったよ。ニャーモさん私たちどこに行くの?」
キリエさんは少し心配そうです。手紙さんもボトルさんもやっぱり少し心配でした。
「仕方が無いわね・・・内緒にして驚かそうと思っていたのに。ほら宮子さんだって、『明日はサプライズがありますよ』って言ってたしね。」
ニャーモさんはそう言って、困った子達と笑いながら種明かしをしてくれました。それを聞いてメールボトル19はそれこそ飛び上がって喜びました。
「ボトルさん、ボトルさん、私たちが行き着けなかったバリ島に行くのよ。わーーー、どんなに素敵なところなのかなぁ。わーー楽しみ楽しみ。」
「うん、あなたたちの目的地だったバリ島。ほらアミメオトメエイさんがすごくいい処よと教えてくれたのでしょ。アミメオトメエイさんてとっても物知りだから、きっとやっぱりバリ島はいい処なのよ。それでね、サムハさんの処に行く前にバリ島によって一泊して、それからスラバヤに行こうと計画したのよ。」
メールボトル19はニャーモさんが考えてくれたことが、すごく嬉しかったのです。バリ島ってどんなところだろう?わくわくしてきました。
「じゃバリ島のDPSって言う都市に行くのね。」
「ニャーモもよく知らないけどバリ島の中の空港はこのDPS,デンパサールと言うところしか無いのよ。」
「うん、分かる。あの辺りは小さい島ばっかりだったから、空港が一つでもおかしくないよ。」
とキリエさんが言いました。
手紙さんが聞きました。
「そこまで何時間かかるの?この飛行機は10時に出発するでしょ。時差はどのぐらい?夜に着くの?朝に着くの?」
「今みかんもリンゴも、丸いもの何もないからボトルさんで説明するわね。」
ニャーモさんはそう言ってボトルさんを手に取り指でなぞって教えました。
「ヘルシンキからKIXへはこういう風に東に向かって飛んだの。それで9時間の時差があったのね。でもここからバリ島へはこんなふうに、北から南へまっすぐ飛ぶの。ほとんど時差がないのよ。7時間かかるから、夜の10時に出発して到着はそのまま夜を過ごして朝の5時に着くのよ。」(注、実際には1時間の時差があります)
「時差って難しいけど面白いものね。でも今回はそのまま夜だし、普通に眠くなる時間だね。良かったね。」
手紙さんとキリエさんが声を揃えていいました。
そんな話をしているうちに搭乗のアナウンスが始まりました。トンネルのようなボーディングブリッジを通って、飛行機の中に乗り込むと、足首までの長いドレスを着たアテンダントさんたちが出迎えてくれました。ニャーモさんは自分の席に座り、物珍しそうにアテンダントさん達の衣装を見ていました。
「私はあんなドレス、スラバヤの町のお店で見たことがあるよ、でもスラバヤの町でも着てるひとはいなかったみたい。あれは何だろうね?綺麗だね。」
「そうか、キリエちゃんは見たことがあるのね。あれは民族衣装って言うの。その国ごとに昔からの独特の衣装があるの。この飛行機はガタール・インドネシア航空って言う飛行機だから、インドネシアの民族衣装を着てお客さんたちをおもてなしするのね。」
「民族衣装ってどこの国にもあるの?普段は着ないの?」
「どこの国にもあると思うよ。昔はみんな普段でも着ていたはず。でも今は洋服が簡単で着やすいからみんな洋服だね。宮子さんが日本の民族衣装の着物を見せてくれたのよ。そりゃ立派なもので、模様がすごいの。私5枚ぐらいスケッチさせてもらったの。真似をするんじゃなくて、その模様を元にしてニャーモ風な図案を描こうと思って。
宮子さんも普段は着ないって言っていたよ。何か特別の行事があるときぐらいしか着ないって。だからスラバヤの町で売っていても、それは特別な時の為に買う人がいるからだと思うよ。」
「フィンランドにも民族衣装ある?」
「あるわよ、結婚式に着たり、お祭りの時に着てみんなで踊ったりするわ。フィンランドの民族衣装はとーーーっても可愛いの。」
「ニャーモさんも持ってる?着る?」
「ううん、私は持ってないし、着ないよ。」
メールボトル19は
『そんなに可愛いのだったらニャーモさんには似合わないだろうね。だから着ないんだね。ニャーモさんに一番似合うのは、なんと言ってもライダースジャケットだものね。あれはかっこいいよね!』
と、こっそり話していました。
「ニャーモさん、民族衣装のことは分かったわ。でも民族って何?」
「またまた、難しい質問してきて、困ったなぁ・・・どう説明したらいいのかな?
あ、そうそうニャーモのお家のお隣さんもそのお隣も、反対側のお隣もわんちゃんを飼っているでしょ。お隣はシベリアンハスキー、そのお隣はラプラドールレトリバー、反対のお隣はダックスフント。どのわんちゃんも、犬、だけど、顔つきとか毛の色とか体の形とかみんな違うでしょ。犬の種類が違うの。
それと同じで人間も、みんな人間だけど国とか地域とかで違ってくるの。ええと・・・ニャーモは北欧の民族で、肌の色はとても白くて目は青くて、鼻は三角形みたいにとがっていて。髪の色はあなたたちの言うトウモロコシの毛みたいな色で。
宮子さんは違ったでしょ。日本民族。髪は元は黒かったけど今は年を取って白髪がまざっていたけどね。目は黒くて肌の色はニャーモより少し黄色っぽいかな?鼻は丸い感じ。ほら、橋本おじさんもおなじような感じだったでしょ。
インドネシアになると東南アジア系民族になって、肌の色は暑い地方だから日焼けで小麦色、目は黒いと思う。鼻は大きくて横に広がっているかな。そんな風にみんな違うの。それが民族。ニャーモ、すごく簡単に説明したからね。本当はもっともっと複雑なのだけど、これぐらいで良いでしょう。」
黙って聞いていたキリエさんが
「サムハさんはお姫様みたいに綺麗だったよ。」
と、強い口調で言いました。
「ううん、ニャーモの説明悪かったかな。インドネシアの人が綺麗じゃ無いって言ったのじゃないのよ。ほら、ここにいるキャビンアテンダントさんたち、みんな綺麗で可愛いもの。ね、キリエさん。」
キリエさんは黙ってしまいました。手紙さんとキリエさんは同体だから、手紙さんにはキリエさんが考えていることが伝わってきます。
『違う・・・・違うんだってば・・・・サムハさんは違うのだもの・・・・』
キリエさんはしきりにそう思っています。そしてボトルさんもじっと何か考え、二回傾きました。『いいえ』と言っているのです。。手紙さんにはどういうことなのか分かりませんでした。それでも何かキリエちゃん達は感じることがあるのだろうと思いました。
飛行機はまた斜めに飛び上がり、後ろに引っ張られる感じがしばらく続きましたが、もうみんな慣れてしまってびっくりしたりしませんでした。ただニャーモさんはしっかりとメールボトル19を抱きしめていました。
夕食が運ばれて食事がすむと機内の灯りが消えました。ニャーモさんもメールボトル19も、今回はもう夜遅いのですぐに眠ることができました。
朝になったようで機内に灯りがともり朝ご飯のサービスが始まりました。もうすぐ到着です。
飛行機は無事にデンパサール空港に到着しました。空港の中はインドネシアの雰囲気いっぱいに飾り付けられています。いかにも南の国に来た感じがします。
「すごいね、ここだけでもインドネシアに来たって感じがするわね。それに比べるとあの関西国際空港は全然日本に来たって感じしなかったねえ・・・割と味気ない空港だったわね。あなたたち連れて行ってあげたことないけど、ラップランドのロバニエミ空港だって、童話の世界みたいな感じのする空港よ。どこもその国らしい空港にしたらいいのにね。
さあ、ホテルに向かいましょうね。」
ニャーモさんは初めての南国でとてもはしゃいでいるみたいでした。でも・・・空港の建物から一歩外に出たとたんに
「ぎゃーーーーーー、この暑さなに???暑い。ぎゃーーめちゃくちゃ暑い。たまらないわ。」
とわめき散らしました。確かに北国のニャーモさんには耐えられない暑さでしょう。
しかしタクシー乗り場に急いでいるとき、とんでもない事が起こったのです。天が抜けてしまったかのような激しい雨が降ってきました。それはバケツの水をどっとかけられたようなものすごい勢いでした。ニャーモさんは慌てて屋根のある処に走りました。
熱帯地方には四季はありません。雨期と乾期があり、北半球で春、にあたる今はちょうど雨期なのです。スコールと呼ばれる強烈な雨が容赦なく降ってきます。
「とんでもない雨だわ。でもみんな平気な顔をして歩いているわ・・・・・・・慣れているのね。でもこの雨いつまで降り続くのかしら?」
メールボトル19はケロッとしていました。キリエさんとボトルさんがスラバヤに居たときも雨期でした。だからこんな雨が降ることは体験していました。
「大丈夫、少ししたら止むから。ずっと一日中降り続いているんじゃないから。」
とキリエさんが言いました。ボトルさんも一回傾きました。
その言葉通り暫くすると嘘のように雨はあがり、太陽がさんさんと辺りを照らし始めました。スコールの激しさには参ってしまったニャーモさんでしたが、そのおかげでかなり涼しくなりました。そして建物も木々も雨に洗われて、しっとりとても綺麗に見えたのです。
木々の緑は色深くなり美しさを増しました。空気も柔らかくなったような感じがして、何か優しいものに包まれているかのように変化したのです。
やっと落ち着いたニャーモさんは、今度こそとタクシー乗り場に向かいました。
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