第18話 「心配するな。大丈夫だから」

第18話 「心配するな。大丈夫だから」





 次の日、学校に行くと未来が心配しながら教室へかけこんできた。シエルをひろった日と同じような声色で「どうして学校休んだの!」と俺の机に手をつき、身を乗り出して聞いてきた。俺はあの時と同じく「サボりだよ」と答えると、未来は少し考えた後シエル関連のことかと察してもう一度理由を聞いてきた。


「なんでと言われても、昨日は本当にサボりだから。それ以上の理由はないよ」


「うそ、そうやってこの前もごまかしてたよね!」


シエルと喧嘩したこと、そしてシエルが家を出たことは未来に話すつもりはない。

心配をかけたくないからだ。未来は昔からお人よしで友達をいちばんに考える。

自分を犠牲にしてまで他人を助けることになんのためらいも感じない。

そのせいでトラブルに巻き込まれることもあった。だからシエルが家出したなんていったら学校を休んで一晩中捜しまわるに違いない。

そんなことさせられないし、無駄な心配をかけたくはない。


「本当にサボりなんだ。気にしないでくれ」


「え、そんな…」


心配する未来には悪いが、俺は今日だけは嘘をつかせてもらう。喧嘩の理由も聞かれたくないしな。


「嘘だとわかっててもあえて真相を聞かないってのも優しさなんだぞ。今回はその優しさを使う時だ」


「でも、心配なんだもん…」


未来はしゅんとして泣きそうにうつむいている。


「心配するな。大丈夫だから」


「心配もそうだけどさ。何でも話してほしいんだよ。幼なじみだし。私が困っていた時はいつも相談に乗ってくれてるじゃん。この前だってシエルちゃんのこと相談してくれて、私嬉しかったんだよ。だからもっと頼ってほしいって思ってるのに…」


「そう思ってくれてるのはありがたいし、嬉しいよ。でも“何でも”っていうのは難しいよ。言いたくないこともあるだろ、お前もさ」


「うん…」


「別に信頼してないとかじゃないから」


「でも…あ、じゃあ今日一緒に帰ってもいい?」


「どうして?」


「だってこのまま終わるのいやだし。相談には乗れないけど気分落ち込んでそうだから。勇気づけ?」


「お前、部活はどうするんだよ?」


「部活は普通にあるから、終わるまで待ってて。19時までには帰れるし」


「あぁ…そうか?」


未来は俺が嘘をついたことが引っかかるのかどうしても一緒に帰りたいみたいだ。

だが、俺にはシエルを探しに行くという大事な用事がある。


「待っててくれる?」


不安そうに俺を見つめてくるせいで断るのがためらわれる。


が、しかし。


「いや、今日は一人で帰るよ。部活終わるまでやることもないし、友達と帰りんさい」


「え、わかった…」


「普通に部活ない時に帰ろうぜ。その方がゆっくり話せる」


「そうだね。じゃあまた誘う」


「おう」


「渉。この前みたく渉から誘ってくれてもいいんだよ?」


俺はそれに対して「わかった」とだけ返事をした。未来は教室を後にして自分の教室に帰っていった。


あれ、俺、冷たすぎた?

未来、ずっと悲しい顔してた気がするし…

なんか悪いことをしたかな…

いやいや、でも俺にはやらなきゃいけないことがあるから。

仕方ないよな。


ドッドッドッ。


机の上で頭を抱えて悩んでいると、教室に帰ったはずの未来がダッシュでこちらに戻ってきた。教室は授業が始める直前ということもあり、先ほどまでの喋り声は弱まり、一部のグループだけがしきりに話を続けているだけだった。未来はそんな静けさの中勢いよく俺の机に手をつき、こちらをじっと見つめた。


「渉のバカ!」


「へっ?」


その叫びにクラスのほとんどが不思議そうな顔を向けてきた。未来はそれだけ言って小走りで教室を出て行った。

なんで叫ばれ…やっぱり怒ってるのか。さらに頭を抱えて言葉の意味を考えた。



「え、なんか叫ばれてるよ?」

「昨日休んだ一ノ瀬君だよね。未来ちゃんに怒られて…なにしたんだろうね」



クラスの女子たちがひそひそと話し始めた。そりゃああんな叫び声を聞いたらざわざわしないわけがない。俺を見ながら、「えぇ~なんだろうね~」「喧嘩かなぁ」「やだね~」などと噂をしている。こんなに嫌われてたっけ、俺。こうして悪目立ちしてするのはあまり好きじゃないんだけどなあ。

ま、仕方ない。

さっき未来の誘いを断った罰だな。



 気にせず、シエルについて考えることにした。

探しに行くって言ったってどこに行けばいいのか。


シエルの行動範囲を考えたが、ざっくり二手に分かれるだろう。

行ったことのある場所に行くか、知らない場所にふらふらと歩き始めるか。

後者であった場合はもう手が付けられない。服を買いに言った際、電車を使ったためシエルは乗ろうと思えば電車には乗れてしまう。ただお金は持っていないだろうから、行くためにお金が必要なところに行くことはないだろう。


電車、タクシーの選択肢が消えれば、シエルの行動圏内は徒歩で行ける範囲に絞られる。


そしていなくなってから今日が三日目。


そう考えるとふらふらと歩いたところで町を抜け出したとは思えない。


行っても海ぐらい…だよな。



次に前者を考える。行ったことのある場所に行ったという予想だ。

行ったこと場所は数少ない。どこかに出かけたのはあのショッピングモールと公園と近くのスーパーだけだ。

昼間に行く可能性はあるにせよ、寝泊まりをするとは考えにくい。

あと、シエルのいける場所は…

入院していた病院か俺の家か、この学校か。


泊まっていることを考えると、一番可能性があるのは病院だ。病院ならお世話になった人もいるし、入院している時に仲良くなった人たちもいるだろう。

家を追い出されたといえば黙って追い返すようなこともしないはずだ。

ただそんなところに助けを求めることがあるだろうか。

そんな常識的に考えて住処を探すような真似はするだろうか。

自分で言っては何だが、俺はそうとう攻撃力のある言葉をかけた。

その自覚はある。

そのダメージからすぐに気持ちを切り替え、自分で生活する術を考えるだろうか。

むしろ途方に暮れて、寝てない可能性も考えられる。

俺の迎えを信じて待っているかもしれない。




くそ…考えてもわからない…。

俺こんなにあいつのこと知らなかったんだ。

毎日一緒にご飯を食べて、寝ていたはずだったのに。肝心なことは何も知らなかったんだな。まだお互いを知らないのに、あんなこと言って。

まだまだこれからだったのか、俺たち。


どこかに必ずいるはずだ。

何日かかってもいい。


いろいろと選択肢を考えた結果、いちばん可能性のある病院に行くことにした。

放課後になったら寄ってみよう。

いなくても、何かいい手がかりがもらえるかもしれない。

一人で考え込むより相談ができるというだけでも俺の気が楽になる。



三上さんに、怒られるんだろうな…

ゆきとは比べ物にならないくらい叱られるんだろうな…



ちょっと嫌だな、明日にしようかな。

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