第4話 「いや、ちょっと撫でたくなっただけだ」
第4話 「いや、ちょっと撫でたくなっただけだ」
プルプルプル・・・
プルプルプルプル・・・
プルプルプルプルプル・・・
また着信がきた。誰だろう。
涙をぬぐった後、カバンに入ったままだったスマホを取りだし画面を見る。
着信は
「あぁ、もしも。」
「ちょっと! なんで電話出ないの!」
耳を劈くような叫び声。
「なんだ・・・。」
「なんだじゃないでしょ!
電話何回もしてるのに出ないんだもん!
私に連絡もなしで学校休んでたし心配したんだよ?
先生に聞いたら体調不良ですって言われて電話かけてみたら出ないんだもん!
私、渉が死んじゃったかと思って心配したんだから・・・」
ぐすぐすと鼻をすする音が聞こえる。
なんで泣いてるんだ、死ぬわけがないだろう。
「あぁ・・・わりぃ。でも心配しすぎだ、俺全然元気だし」
「でも風邪ひいてるんじゃないの?」
「そんな人が死ぬような風邪、俺がかかるわけないだろ?それに、風邪だって言うの、嘘だし」
「え?」
「今日休んだのってサボりだし」
「はぁ!!」
「いやぁ心配させて悪かったな」
心配させたこと、嘘をついたこと、俺は二重の意味で謝罪した。
「サボりって・・・。あの、学校だけは真面目に行ってる渉がサボりなんて・・・」
確かに。
俺は生まれてこの方、学校をサボるなんて事はしたことがない。
風邪をひいたか法事かくらいでしか休んだことないし、体調を崩すことも少なかったからほとんど休まないいい子だった。
授業はたいしておもしろいとは感じなかったし、友達も多い方ではなかった。
だけど学校だけは休まずに毎日行っていたのだ。
今思えば行く理由なんて何もないのになんで行っていたのだろうか。
俺もわからない。
「まぁいいじゃないか。そんな俺の唯一のサボりだ」
「いいけどさ~。どういう風の吹き回しなのかな~って」
通学の途中に倒れている少女を助けただけなんですが。
「明日は普通に学校行くんでしょ?」
「うん、まあ」
「わかった。じゃあ朝、家まで迎えに行くね」
「おう・・・。朝練はいいのか」
「うん、明日は先生が朝から出張に行かなきゃいけなくてないんだ~」
剣道部は運動部の中でも割としっかり練習がある部活なのだ。
朝練は毎日一時間ほどあり、放課後も暗くなるまで練習している。
ちなみに中学から剣道を始めていて全国大会も経験するほどなので、剣道部のエースだ。
高校に入ってからも才能は発揮され、二年生ながら大将を務めている。
「そっか。あの鬼教師が出張とは。久々の休みなんじゃないか?」
「そうだね~。朝はずっと練習してたから部活ない方がむしろ変な感じ。っていうか、飯田先生は鬼教師なんかじゃないよ?たまぁ~に怖いこともあるけど、普段は優しいおじいさんって感じだよ!」
「いや、そのたまに怖いことがあるってのが、嫌なんだよ」
「相変わらずの先生嫌いだね~」
「先生なんてのは決められたカリキュラムをこなすだけのロボットでしかないし、カリキュラムに合わない生徒がいたら問答無用で怒るんだからな」
「ま、いいや。その愚痴はまた後で聞かせて。明日ちゃんと起きるんだよ」
「了解です」
「じゃ、ばいば~い」
スマホをテーブルに置いた。
ふと時刻を見ると5時を指している。
部活の合間に電話してくれたのだろう。
つい長電話してしまったかもしれない、申し訳ないな。
明日は未来と一緒に登校か。久しぶりだ。
俺は少し笑顔になりながら、ソファから立ち上がった。
***
カーテンから朝日が差し込む。
昨日はしっかりとカーテンを閉めたので、まぶしくて起きることもなく、俺はスマホの目覚ましを止めた。今日は未来が家に迎えに来る。
早々に準備をして俺は外に出た。
玄関の前で栗色の高めポニーテールの少女が待っていた。
「あ、おっはよ~」
「おう、待たせたか」
「ううん、ちょうど今来たところだよ」
「ならよかった。来てくれてありがとな」
「ううん、私が来たかったの。昨日の分、話したいなーって思ってたし」
上目遣いで少し照れた表情を見せる。
かわいいなぁと思い、頭を撫でてやった。
「ちょ、な、な、なに」
さらに顔が赤くなった。
「いや、ちょっと撫でたくなっただけだ」
そんなに照れられると申し訳なくなってくるな。
「そ、そんな単純な気持ちで撫でないでよ~。乙女の純情をもてあそんでだな!ほら行くよ」
そう言うと、ぐぃっと腕をつかみ、引っ張った。
すたすたと歩いている未来のポニーテールに俺はごめんなと心の中でつぶやいた。
昨日の学校での出来事や今日の授業の話など他愛もない話をし、気が付いたときには学校に着いていた。
「じゃあな。帰りはどうするんだ。部活はないんだろ」
「うん、だから早く帰れるの。渉と同じ時間に」
「そっか、じゃあ一緒に帰るか」
「うん‼」
そう言って俺たちはそれぞれの教室に入っていった。
昨日休んだせいか、ほとんどの授業が内容のよくわからないままに過ぎていった。
もう5月中旬に差し掛かり、中間試験を一か月前に控えているということで授業のスピードがいつもよりも早かったらしい。
先生が授業中に「ここ試験に出すからなー」と口酸っぱく言っていた。
直前になり、そんなに急ぐんなら始めからトップスピードで来てくれた方が生徒もあきれたりしないのに。
突然のペースアップに休み時間の教室では、「授業ついていけない」だとか、「試験すでに終わってるわww」だとか、「先生、うざいわw」だとか、もう非難囂々である。
幸い、俺は勉強はできる方だし、のみこみの速い方ではあるので、家でちょちょっと復習すればまあランキング上位は硬いだろう。
まあ、勉強が退屈なのはみんなと同感なんだけど。
ガラッ
そんな喧噪な教室に先ほどまで国語の授業をしていた俺のクラスの担任、佐藤先生がやってきた。
悪口や何やらで騒がしかった教室は一瞬の静寂を挟み、再び活気を増した。
静寂を察知した先生も「あー、悪い」と言わんばかりの申し訳のない表情でこちらを見た。
「おーい、一ノ瀬はいるか?」
え、おれ??
「あ、はい。いますけど」
「あー、よかった。ちょっといいか」
静寂の中、クラスの半数が俺の方を見た。
クラスの全員に注目されながら、のそのそと教室を出た。
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