記憶喪失の少女をひろいました。

秋人

第0話

「記憶喪失の少女をひろいました。」






 怖い。辛い。苦しい。


助けて・・・・・・助けて・・・。





「・・・ちっ、どこへ行った?あいつは・・・くそっ!」





やめて、来ないで・・・。





「×××さん、今そっちに行ったような気がしました!」





いやだ、いやだ、いやだ・・・。こんな日々、普通じゃない日常。


誰か、誰か私を助けて・・・。





「あぁ?わかった。ふんっ、必ず連れ戻すからな。





 シエル・・・。」






  ***






 国語は嫌いだ。

なぜなら人の心を読まなくてはいけないからだ。

その人がどう思っているかなんでわかるわけがないのに、それを問題にして答えを書くなんてどうかしている。

日本語には「空気を読む。」だとか、「気持ちを察す。」などの言葉があるが、正直なところ本当にそんなことができる人間がいるとするならば、その人は天才心理学者もしっぽを巻いて逃げ出すほどのメンタリストだ。

そんなの無理に決まっている。それなのに人間は空気を読みたがり、他人の心を見透かしたかのように話す。


何も見透かしてなどいないのに。


わかったふりをして接し、傷つき、また同じことを繰り返す。

嫌になり最後にはあの人は苦手、と自分から離れていく。

何をしているのか、俺にはわからない。

数学や理科のように、型にはまったやり方があればどれだけ便利か。

簡単に答えを導き出せることがどれほど素晴らしいことか。

ただ、それだと難点ができてしまう。

難点、それは型にはまることで生まれる退屈だ。

簡単に答えがわかってしまう。間違ったかもというあと残りがない。



スリルがない。




結局、どれもつまらない・・・。退屈だ。




「———————だ。よし、今日の授業はここで終わり。」


 キーンコーンカーンコーン


(あ、終わった。)


四時限目の現代文が終わると昼休みだ。今日もまた学食に行こう。今日は何を食べようか・・・。そうだ、カツ丼にしよう。それを食べよう。




 俺は学食に行き、食べたかったカツ丼を注文した。


(おぉ、ほんとだ。すげえ美味そう。)


どんぶりからはあつあつの湯気が出ており、その湯気のトンネルをぬけるとそこにはとろとろの卵の海、そしてそこに腰掛ける分厚いカツ。


見た目だけでわかる、美味いやつだ。


こんなものが警察の取り調べで出てきたら、たとえ冤罪だろうが、無銭飲食だろうが食べてしまう、百点満点の見た目。

そしてこのにおい。

空腹は最大の調味料というが、見た目も立派な調味料だ。




(よしっ、いただきまぁ・・・。)




「あっ!渉だ!」


上空から聞き覚えのある声。




(うわぁ・・・。今いいとこ・・・。)


「なになに?そのカツ丼すっごく美味しそう!食べたい!」


(こいつ、買った本人がまだ口にも入れてないのに。)


「ねぇねぇ?ひーとーくーちー!」


そう言って俺の肩を揺らすショートカットの女子。


こいつは俺と同じ私立上里学園二年生の島崎未来。二年でクラスは離れたが、一年まではずっと同じクラスだった。いわゆる幼なじみというやつ。


(まぁ、この学校、エレベーター式で幼等部から持ち上がれるからそんなに珍しいことでもないんだけどな・・・。)


「まったく、お前はな・・・。今俺が食べようとしていたところなんだぞ。持ち主がまだ食べてもいないのにあっさりと大事なひと口めをいただくつもりか?」


未来は頬を膨らませ、


「むぅ~、まだ食べてないなんてわからなかったんだもん。けちんぼ。」


そう愚痴をこぼす未来を横目に俺はカツ丼をほおばる。


(あぁ・・・。美味い。)


ほっぺたがおちる。美味い。生きててよかった。


「カツ丼くらいで生きててよかったぁ、なんて。渉、大げさなんだから。」


えっ?今の声に出してた?


「そんなに美味しいの?私にも食べさせてよ~。」


そう言って、ぱくり。


「あぁ、これ美味しいやつ・・・。なんか渉が言ってたの納得する気がする・・・。


うまぁ・・・。」


キラキラと目を輝かせて微笑む。


お前も人のこと言えないぞ。幸せそうな顔しやがって。




「ごちそうさま。」


「ごちそうさまでした。ふう、おなかいっぱいだよ~。渉、次の授業なに?」


昼食を食べ終えた。あの後、俺の一口に感動したのか未来も同じカツ丼を注文した。


「次は・・・、化学だと思う。」


「そっか。私は数学だよ。やだなぁ、数学って難しいし、眠くなっちゃうんだよね。ふぁ~。」


と、言いながらもあくびをしている。


すでにねむいだろ、あんた。


「数学の何が難しいんだ。答えが確定してるし、解き方だって一定だし・・・。あんな親切な教科、ほかにないだろ。」


理不尽な問題がない、あいつと違って。


「違うんだよ~。その解き方がわかれば苦労しないの!渉は数学好きだから覚えるの早いけど・・・。」


「俺は数学が好きなわけじゃなくてあのシステムが好きなの。まぁ、あれだ。苦手なりに頑張ってるのはすごいと思うぞ。未来、えらい。」


ちょっと洒落っぽくなっちゃった。


「うん!これからもがんばる!渉も頑張って!うーん、いろいろと!」


そうして教室に戻る。未来と日々、こんな風にたわいもない話をするのはどんなに大人になっての楽しい。


(よし、午後も頑張るか。)






 毎日同じように学校に行き、同じように授業を受け、同じように家に帰る。そんな日々を楽しいと思いつつも、どこか退屈だと思っていた。




非日常を味わいたい。




そう思っていた。


そんな矢先だった。








あの娘こに出会ったのは・・・。

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