『扉』

粟野蒼天

第1話 神隠し

俺の家に地下室に続く扉があったんだけどちょっと探検しに行かね?


そう幼稚園の頃からの親友のあらしに誘われた。

幼い頃から好奇心旺盛で僕とは正反対の性格の持ち主だった。

僕はというと図書室で冒険漫画や小説を読み漁っている大人しい子どもだった。


「暗いところは苦手なんだ」と僕はその誘いを断った。

本当に暗いところが駄目なんだよね……。

小さい頃、誤ってクローゼットに閉じ込められちゃったことがあって、そこから暗いところが駄目になってしまったんだ。

地下なんて絶対暗いし、狭いに決まっている。いくら親友の誘いだからと言って暗いところはゴメンだ。


嵐は「中学生になっても暗いところが苦手とか可愛いなお前」と笑ってその場を去った。


──そして、その日を境に嵐の行方が分からなくなった。

家の防犯カメラには出かける姿は映らず、嵐は家の中にいたまま行方が分からなくなったらしい。


警察が何度も家に来たのを覚えている。

最後に会ったのが僕だったからだろう。

しつこく何度も何度もどこで何をして遊んでいたのか?と問いただされた。

僕は警察に地下室に続く扉のことについて話した。しかし、家のどこを探してもそれらしきものは見つからなかったらしい。

近所では神隠しだの色々囁かれ、嵐の家族は家を引き払ってどこかに引っ越してしまった。

その家は今でも買い手が付かずに放置されていた。

嵐の捜索は僕が中学を卒業しても続いていたが見つかることは決してなかった。


そうしてどんどんと時が経っていき、僕は次第と嵐のことを忘れてしまっていた。

親友とは何だったんだと自分でも思うよ。僕は薄情なやつだ。


しかし、嵐のことを思い返す出来事があった。

それは、僕の仕事に関係して来ることだった。

僕は大学を卒業した後に某オカルト雑誌の編集部に入社した。

怖いのは苦手だが好きでもある。怖いものほど興味をそそられてついつい見ちゃうことがあるよね。これはそれの延長線上の話だ。


次号のテーマが『身近で起こる怪奇現象』になったのが事の始まりだった。

各々が怪奇現象についての取材や調査を始めているときのことだ。


ティンチロリン! ティンティロリン!


記事の編集をしていた時、僕のスマホに見覚えのある番号からの着信があった。

それは十年前に失踪した嵐からだった。

僕は一瞬目を疑った。

瞬きをしてみたり、目を擦ったりしてみる。しかし、表示される番号は変わってなかった。


「……」


鳴り続ける着信音。

僕は恐怖で電話に出ることが出来なかった。


ティンティロリン! ティンティロリン!


二度目の着信でようやく出る決心が付いた。


画面のボタンを押してスマホを耳に押し付ける。


「もしもし……」


「もしもし。涼太郎りょうたろうでいいんだよな?」


震えが止まらない。首筋からは変な汗が流れてくる。

スマホから出る声は十年前と変わらない。声変わりをする前の嵐の声だった。

なんで? どうして? 

十年前と変わらない声なんだ? なんで今になって連絡して来たんだ?

疑問が湯水のごとく湧いてくる。


「嵐……なんだよな?」


「そうだ、お前の親友の犬飼嵐だ」


「今までどこに行って何してたんだよ!? 皆必死になってお前のことをさがしてたんだぞ! おばさんたちなんてどこかに引っ越しちゃったし……」


「俺もびっくりしてんだよ! もう何がなんだかわかんねーんだよ! だって俺が扉に入ったのはついさっきなんだったんだぞ!?」


扉って嵐が言っていた地下室に続く扉か……。

ついさっき入ったって、こっちでは十年も経っているのに……。


「今どこにいるんだ?」


「俺の家の近くの公園」


「分かった。じゃあ駅近くのファミレスか図書館に行ってくれないか? 今すぐそっちに向かうから」


「分かった」


僕は最低限の荷物を持って地元に向かった。





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『扉』 粟野蒼天 @tendarnma

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