【024】感情なく、淡々と説明するサッキー

サッキーは、シャワーノズルのトリガーから指を離し水やりを中断する。


「……今やっていることは、エリート科にいる知り合いからのお願いです」


「やっぱり。そりゃ……断れないよな」


「……そうですね。今も私の『負債』を肩代わりしてくれているので、お願いは断れません」


感情なく、淡々と説明するサッキー。


(どうしよう……)


サッキーにかける言葉を必死に考え、ショウは決心して伝える。


「余計なお世話なんだけど、サッキーに残された時間を考えてて。……心配してる」


サッキーは、ハッとした表情すると下唇を噛み締めた。


「……あの……お昼休みの時、阿加井(あかい)さんに呼ばれて。花壇の水やりをお願いされました。でも、まだアルバイト部、頑張れば、お借りした分を返せるって伝えたんですが。『もう時間的に無理でしょっ?』て言われて。……それより、在学中、できる限り、手伝いをしてと……い言われて……」


サッキーの声が震えていく。


「わ、わたしっ……っ……ひっ……」


言葉が途切れ、頬に涙がつたう。


花壇の隅に、ポロポロと雫が落ちる。


握りしめていたシャワーを手放し、両手で涙をぬぐい、嗚咽を堪えるように泣き始めた。


(……)


ショウは、制服の内ポケットから未使用のハンカチを取り出し、サッキーの正面でしゃごむ。


指の隙間から、次々溢れる涙をそっと拭く……


「サッキー。まだ諦めるのは早いって!」


「……し……ショウさ……んっ」


「断れない面倒ごとを押し付けられて、現実まで突きつけられて、実際、ヤバい状況だけどさ」


「だけど、まだ期日は来てない。まだ時間は、残ってる」


「サッキーさ、最後まで頑張りたいって言ってた。そしたらさ、最後の1分1秒まで、自分の可能性にさ、バカみたいに期待しようぜ」


「……」


目を赤くしたままサッキーは、ショウを見つめる。


「……そ、そうですよね。まだ終わってないです……よね」


「サッキーなら、大丈夫!別に根拠はないけどさ」


「……わ……私……まだ、諦めたくありません」


ショウは、恥ずかしそうに頬を指で擦ると花壇の奥へ目線を外す。


「やばっ、熱く語りすぎて恥ずかしいわ……つまり、俺の所感として、最後まで走り切った方が終わりが気持ちが良いってコト」


サッキーは、ショウの手からハンカチを受け取り、残った涙を拭う。


「……そうですね。どうせダメだとしても、やり切ってダメになりたいです」


「いいね!でも、ダメになると決まってない。俺は、まだ可能性はあると思ってる」


「……え?えっと、そうなん……ですか?」


「多分!言ったものの、机上の空論かも」


「……難しいですよね……きっと」


「まぁ、とにかく目星をつけて行動してみよう。……サッキーは、まず目の前のやらなきゃいけない事を一つに集中!」


「は……はいっ」


元気を戻したサッキーに安心したショウは、背を向ける。


「それじゃ、俺は、アルバイト部に行ってくる!」


サッと手を振り、ショウはアルバイト部に向けて走り出した。


「ショウさん、ありがとうございます……」


サッキーは、真剣な表情でシャワーを拾いの水やりを再開したのだった……

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