第20話 式神と狙い
心優が神社で雑用している時、犬宮は最古を膝に乗せパソコンに向かっていた。
モニターに映っているのは、ちょうど心優がいる神社のホームページ。
そこには赤い文字で”紅城神社”と大きく描かれていた。
占いを主に行い、相談や厄払いなどもやってくれると書かれている。その隣には料金の記載。
ホームページを見た感じ、特におかしい所はない。
犬宮も首を傾げ、眼鏡をかけまじまじと画面を見る。
だが、いくら見ても気がかりになりそうなものは見つけられない。
「……………………まぁ、ホームページにあるわけないよなぁ。手がかり…………」
画面から目を離し、眼鏡を取り天井を見上げる。
目が疲れ、眉間をつまんだ。
――――心優からの報告、メール自体には特に違和感はない。ただ、心優自身が身動きが取れないというのは、ちょっと予想外だ。
目を一度強く瞑り、開くとホームページから画面を切り替え、心優からのメールを確認する。
――――このメールが一番の違和感だな。一人になる時間がないなんて。まるで、心優の動き自体を警戒しているような感じだ。
犬宮が見ているのは、心優が追記で送ったメール。
――――巫女が一人、心優に張り付いている。監視なのか、そういう体制なのか。
自ら動いて確認したいところだが、膝の上に座り眠っている翔を見ては何も出来ない。
少しでも出来る事をと思い、パソコンで調べ物。だが、それにも限界はある。
今回の件は、ハッキングも難しい。
足跡を残してしまえば終わり、倍にして仕返しをされる。
今までハッキングで失敗してきたことはないが、今まで犬宮は失敗した時の事もしっかりと考え行っていた。
今回はハッキングを行うメリットと、失敗した時のデメリットを天秤にかけ、やる事はしなかった。
「…………はぁ。――――あ」
犬宮は諦めパソコンを閉じようとしたが、その手が止まる。
すぐにキーボードに手を添え、操作し始めた。
調べ出したのは、十年前の紅城神社。
紅城家は当初、そこまで有名ではなかった。
実力はそこそこ、弱くもなければ強くもない。
どこにでもあるような、ただの神社。
そんな普通の神社だった紅城家は、ある怪異を捕まえたという事で一時期名前が広まり、他の陰陽師達から尊敬され、優遇されていた。
その怪異の名前は”狗神”。
狗神はある人物にとりついており、憑き人を紅城神社は捕らえていた。
「――――そう言えば、なんで紅城神社の陰陽師は、
――――人間だったから?
俺の姉さんに頼まれたから?
色々考えたが、すぐに一つの言葉が浮かぶ。
それは、名誉。
神社という物は、名前が広がらなければすぐに寂れなくなってしまう。
紅城家の実力はそんなに高くない。
そのため、犬宮を利用して、名前を広めた。だから、殺さなかった。
だが、その判断は見誤った結果に。
犬宮の姉と黒田の行動により、一時的に跳ね上がった名誉はすぐ崖に落ちた。
――――黒田が逃がした俺を、今度こそ殺す。つまり狗神という最恐の怪異を殺したことにもなるだろう。
そうなれば名前は爆発的に広がり、過去の汚名を返上できるだろう。
それに加え、今も犬宮と共に翔がいる。
翔の血は陰陽師なら誰でも欲しいと思う程珍しい、
犬宮は翔の血を利用し、狗神の力を抑え、自身で扱える程度で利用して来た。
利用方法は色々。ただ、怪異の討伐などには絶対に使いたい代物なのはすぐにわかる。
色々考えていると、突如犬宮の頭に過去の記憶が蘇る。
『――――喚くな、汚れた餓鬼の後始末をしてやるこちらの事も考えてほしい』
『――――次は腕を切ってみようか。狗神は瘴気があれば体をいくらでも再生できると耳にしたことがある』
『――――斬り落とすまではするなよ? 回復しなければまずい』
――――――――やめてくれ、もう、痛い事はしないでくれ。
――――――――嫌だ、嫌だ嫌だ。こんなことされるんだったらいっそ、俺を殺してくれ!!!
…………――――キーーーーーン
――――っ、耳鳴り、頭が痛い。
犬宮は頭を支え、痛みに耐えた。
その時、今まで記憶の奥底にしまっていた過去が溢れるように脳裏に浮かぶ。
「はぁ、はぁ……。今は、思い出さなくてもいい。現状把握と、紅城家の足取り、企みだけを考えないと……」
息を切らし、思考を強制的に止めた。
かぶりを振り、すぐに気持ちを落ち着かせる。波打つ心臓もゆっくりとなり、滲み出た冷や汗を拭った。
「えっと……。あいつらの目的は俺と翔。黒田は天敵になりうるだろう。――――あ」
――――俺が狙いなのなら、俺達の事は調べているはず。調べてから、動き出しているはず。
「――――つまり、心優も狙われてる?」
――――ちょっと、やばいか。
いや、心優なら大丈夫、かな。普通に俺より強いし。
「…………逆に、陰陽師達が無事で済むかわからなくなってきたな」
げんなりとした表情を浮かべている犬宮の頭には、愛娘を愛してやまない老人の姿だった。
※
神社での生活にも慣れてきた頃、心優はいつものように自室で犬宮に報告するようのメールを打っていた。
だが、今日は頭を抱え、一向に文面が進んでいない。
「…………なんか、怪しい気がする」
怪しいと思っているが、その原因が今の心優にはわからない。
だが、心にもやもやが残り、気分は最悪。
一度スマホをテーブルに置き、その場に寝転がる。
天井を見上げ、木目を数えながらぼぉ~とした。
「…………なんだろう。何かが怪しんだけど、わからない」
目を閉じ、頭の中を整理。
だが、目まぐるしい雑務しか思い出す事が出来ずため息。
――――ただの疲労かなぁ。
体を起こし、気分を変えるため上へと伸ばした。
そんな事をしていても、胸に根付いたもやもやはやっぱり消えない。
眉間に皺を寄せ唇を尖らせていると、廊下の方から足音が聞こえ始める。
その音はしっかりと心優の耳にも届き、目を丸くした。
――――もしかして、また巴ちゃんかな。
お買い物は前に行ったばかりだし、何か雑用を残してたのかな。
足音に集中していると、心優のいる部屋の前で止まる。
やっぱりかと思いつつ、最後の最後まで動こうとしない心優は、襖の外から聞こえてきた声に目を見張った。
『真矢さん、起きていますか?』
「御子柴さん? はい、起きています」
――――な、なんでこんな時間に御子柴さんが?
返事をしたと同時に心優は、スマホに表示されている時間を確認。
そこには”11:21”と書かれている。
今までこのような時間に御子柴が現れる事がなかったため、困惑しつつもスマホをポケットの中に入れ襖を開いた。
「あの、いかがいたっ――――」
襖を開けた瞬間に襲ってきたのは、頭への強い衝撃。
目に映ったのは、心優をあざ笑うように見下ろす御子柴と、巴の姿だった。
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