第17話 怪異とお守り
無事に買い物メモに書かれていた物を買った二人は、寄り道せず真っすぐ神社へと戻った。
食品はすぐ冷蔵庫へ入れ込み、日用品は定位置へと置く。
全ての物を片付け終わり、二人はそれぞれ部屋へと戻った。
心優は自室に布団を敷き、部屋着に着換えた。
布団に倒れ込み、巴から聞いた話を思い出す。
「巴ちゃんの両親が首無しによって殺された。…………でも、そんなこと、ないはず。あの、黒田さんが、人を殺すようなことをするなんて……」
先程までは、犬宮が信じている黒田を信じると心に決めていたが、それでも不安は過る。
怪異という知識が少なく、黒田という人物とは犬宮繋がりでしかかかわったことがない。
普段何をしているかも知らない。
そんな状況で、心から信用するなんて難しい。
────こんな時、いつもなら犬宮さんに聞けばすぐに解決するんだけど、今は大変な事態になっている。
それに、自分の大事な人を疑われているという事態を心優は暴露する事になると考え、言えない。
――――まぁ、雑務で事務所に戻る事すら出来ないだろうし。諦めるしかないかな。
「ふあぁぁあ…………ねむ」
流石に疲れが溜まり、睡魔が心優を襲う。
不安は残るが、これ以上起きていても明日の業務に影響すると思い、素直に寝る事にした。
※
「心優ちゃん、そっちをお願いできる?」
「わかった」
心優は、巫女として神社で働くようになってから一週間経った。
最初と比べると流れなどもわかり、雑用はスムーズに出来るようになっていた。
今は、巴と共に洗濯物を神社の裏手にある広場で干している。
「心優ちゃんはまだ神社に来て一週間なのに、もう手慣れたもんだよね」
「元々やっていた仕事より覚えやすいのと、家でも家事はやっていたから」
────いや、今も探偵社では働いているけどね? やめてないけどね?
私は今潜入しているだけ、私は探偵社の一員だから!!
自分の言葉に対し言い訳をしつつ洗濯物を巴から受け取り、物干し竿に干す。
今日の天候は曇り、辺りは薄暗くジメジメしている。
乾きが悪そうだなぁと思っていると、心優を呼ぶ凛々しい声が聞こえた。
「
「っ、は、はい!」
咄嗟に振り向くと、そこには心優が最初に神社で出会った女性が立っていた。
巫女装束を身に着け、心優を黒い瞳で見つめる。
艶やかな黒い髪は後ろで一つにまとめられ、風に乗り横へと靡いていた。
――――な、何だろう。
目を丸くして次の言葉を待っていると、ふと、隣に立っていた巴の気配が変わる。
横目で見てみると、顔を真っ青にしている巴が洗濯物を手にし固まっていた。
どうしたのか聞こうとするが、それより女性が話し出してしまい聞けなくなる。
「貴方、今日はこの後お時間あるかしら」
「あ、えっと。一応あるのですが、まだやる事が残っていまして…………」
まだ籠に残っている洗濯物を見ながら心優が言うと、巴が慌てたように立ち上がった。
「だ、大丈夫だよ心優ちゃん! あとは私がやっておくから!」
「でも、まだ多く残っているよ?」
洗濯物は後二回分は残っている。
二人でも大変なのに、一人でとなると時間が倍以上かかってしまう。
それに、巴は一人でやると効率が悪い。
時間が人の倍かかってしまうのを心優は知っていたため、困ってしまった。
二人の様子を見ていた女性は、表情一つ変えず口を開く。
「わかりました。では、また時間を改めます」
それだけを残し、女性はいなくなった。
残された二人は、なんの用だったのだろうかと顔を見合せ、首を傾げる。
「なんだったんだろう」
「わからない…………」
巴に聞いても分かるはずないことは心優にも分かっていたが、問いかけずには居られなかった。
――――意味深な瞳だったような気がする。あと、これはあくまで直感だけど。
なんか、悪いことでも企んでいるような……、そんな目だった気が……。
眉間に深い皺を寄せ考えていると、凄みのある表情になってしまい、巴が体を大きく震わせてしまった。
「み、心優ちゃん? どうしたの? こ、怖いよ……?」
「あっ。いや、大丈夫だよ。ご、ごめんね」
――――し、しまった。私は普通の巫女、一般人、ヤクザの娘だはない。
慌てたように取り繕い、咳ばらいをし洗濯物を干し始める。
まだ色々気になる部分はあるが、巴は心優に手を差し出されてしまい、籠の中に入っている洗濯物を渡すしか出来なくなってしまった。
ここからは、普通に雑談をしながら今日の業務を終了させた。
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心優は部屋に戻りスマホを手に取り、座布団に腰を下ろした。
画面には犬宮へ送る為のメール画面が表示されている。
「…………えっと。『今日も特に変わったことがありませんでした。業務の中で色々調べられないか隙を見つけますが、一人で行動できず難しいです』――――と」
――――はぁ、本当に一人で行動できない。いつも誰かしらと共に行動させられるんだよなぁ。色々探りを入れたくても出来ない。
ふと、そんな時、疑問が頭に浮上する。
なぜ、心優はいつも誰かと共に行動、主に巴と行動を共にされているのか。
新人教育というのもわかる。だが、それだと失礼だが巴では実力不足。
他の人の方が効率よく心優に教える事が出来る。
「うーん? あこれも、メールで送っておこうかな」
わからず、犬宮に頼る事にした心優は、”追記”と今の考えも共に送った。
「はぁぁぁぁあ、つっかれたぁぁぁああ。犬宮さんに会う事も出来ないし、
テーブルに項垂れ、嘆く心優のスマホが突如響く。
画面を見ると、巴からの着信だった。
「電話なんて珍しいなぁ――――もしもし、どうしたの、巴ちゃん」
『あ、心優ちゃん。疲れているところごめんね、またお買い物に付き合ってくれないかなって思って』
――――あー、なるほど。
また私は暗闇を歩かないといけないのか。
私はまた恥を晒さないといけないのか。
遠い目を浮かべていると名前が呼ばれ、ハッとなり笑ってごまかした。
「だ、大丈夫、大丈夫だよ。これからすぐ?」
『うん。私は神社の前で待っているから、来てくれると嬉しいな』
「わかった、今行くね」
『ありがとう!』
そこで通話が終わらせ、心優はスマホを握りながら天井を見上げた。
行きたくない気持ちを押し込め、心優は「よっこいしょ」と立ち上がる。
「はぁ、行かないと――――あ、やばっ!」
立ち上がった拍子にポケットの中に入れていたお守りが落ちてしまい、慌てて拾い上げる。その時、ちょっとした違和感に気づいた。
「あ、あれ? なんか、黒くなってる?」
お守りの角が少しだけ黒くなっていた。
下の方、よく見ないとわからない程度に。
まじまじ見てみるけど何かが付着しているのだろうと思い、心優はあまり気にせずポケットの中に入れた。
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