父の死の謎と消えたスマートフォンの謎。

さんまぐ

第1話 父さんの死に来た人たち。

父さんが死んだ。

自殺だった。

遺書は見つかっていない。

事故や事件を疑ったが、警察の捜査で自殺と判断された。


父さんは穏やかな人だった。

地方に住んでいた事もあって、父方の親戚達とは疎遠だったが、だからこそ家族3人で仲睦まじく暮らして来た。


大学四年。

これから就職活動をして、仕事が決まれば余生には早いが、夫婦2人で沢山出かけて、沢山仲良く過ごして欲しいと成人した時に伝えたら、「まだまだ心配でそんな事はできないさ」と笑ってくれていた。


まだまだ心配でそんな事はできないさ。


そう言っていた父さんの突然の死に、母さんは憔悴しきっていて、俺が喪主をやった。


それはあまりにも想像を絶する葬儀だった。

父さんのこちらで出来た知人達、職場の同僚達、俺や母さんの知り合いも父さんを偲んでくれた。



だが、父さんの親を名乗る人たち、父さんの友を名乗る人達、この人たちは皆身勝手で、故人を偲ぶ事もなく、最後の時まで父さんを馬鹿にし、笑い、蔑み、貶めて、「出席をしてやった」と言って、好き勝手酒を飲んで、「観光気分じゃなかったら来なかった」、「地方に来てやったんだから、観光をして帰ろう」、「この土地にはろくな観光名所もない」、「アイツにはお似合いの土地だった」と言って帰って行った。


ここで初めて、父さんの事を何も知らないと思い知らされた。

父さんの事を知る必要があると思えた。

父さんの事を知れれば、自殺の意味を知れると思った。


手始めに、就職活動を隠れ蓑に、東京まで行く事にした。


母さんは東京と聞いて取り乱したが、「せっかくだから見てくるだけ、俺が住むのはこの街だよ」と告げて家を出る。

確かに説明会には登録したし、浅草で行われるのだが、その説明会はキャンセルをしていた。


父さんの実家は東京の新小岩という所にあった。

参列者の名簿を見たらすぐにわかる。

逆を言えば、名簿を見なければわからないくらいの距離感。


ウチからでは乗り換え回数も多くて、容易に行ける場所ではなかった。


異質だった。

人生で今まで接点のなかった孫が初めて、しかも父さんの訃報後に初めて来たというのに、一つも歓迎されなかった。


玄関で門前払いにならなかった事を、プラスに評価するくらいの扱い。

築20年くらいのリビングに通されて、お茶が出て来たところで、父さんの思い出の品が無いか聞いてみたが、家を出てすぐに処分されていて何一つ残されていなかった。


次に納骨の話を出してみたが、直訳すると「そっちで墓を買え」、「うちの墓には入れない」と言われる。


無機質で、顔の中に父さんに似ている部分があるからこそ、辛うじて祖父母に思える人間たちからすると、父さんは昔から存在していなかったのではないか、そう思えてならなかった。


祖母らしき人が「好生よしお、今日来たのは?遺品の為?」と聞いて来て、俺が「父が生まれた街に来てみたかったからです」と答えると、祖父は「アイツは薄情で、この街を捨てた。何もない」と言って迷惑そうな顔をした。


意味がわからない。

とりあえず、この家で父さんは名前すら出してはいけないタブーの存在みたいで、最後まで名前は出なかった。


「アルバムとか、卒業証書とかは無いんですか?」

「捨てた。ここにはない」


ここで祖母から「ここには無いけど、見たいならお葬式に来てくれた髙成くんに頼んでみれば?」と言われる。


「ああ、あの子は友達だったか」と祖父も言うが、連絡先は出てこない。

辛うじて名簿はあるし、名簿の写真はスマホに入れてあるので、見ればなんとかなる。


「父が通った学校はまだありますか?見れますか?」

「統廃合でもうない」


何を話しても無駄だった。

とりあえず、最後にもう一度納骨について聞いてみたら、「気を使わせたくない」、「気にせずそちらだけでやりなさい」と言われる。


直訳すれば関わりたくないだ。

こちらもその気なら縁なんてない。


俺は最低限の礼を告げて、父さんの痕跡が何一つない家を後にした。


髙成…髙成卓たかなし すぐるはすぐに見つかった。午後3時だったが電話をすると、一度目は取られなかったが、すぐに折り返しの電話が来て、父さんの話をすると今晩会ってくれると言われた。


夕方6時に新小岩駅に現れた髙成卓は小柄な男で存在感もない、父さんの葬儀に居たのか記憶を漁っても出てこなかった。


ニコニコというよりヘラヘラという方が似合う髙成卓は、俺を見て「どうしたのかな?なにかあった?」と聞いて来た。


漠然とした気持ち悪さに「なにか…ですか?」と聞くと、髙成卓は身振り手振りで「いや、遠方から来るくらいだから、何かあったのかと思ってね」と言う。


「そういう事ですか、父の事を知らなくて知りたかったんです」

「え?知らないの?そうなんだ」


髙成卓は近くのファーストフード店で、コーヒーと共に少しだけ話してくれた。


「何が知りたいの?」

「東京にいた頃の父の事、実家に顔を出しましたが、あそこには父の痕跡は何ひとつ、卒業アルバムひとつありませんでした」


嘘か真か、眉に唾を塗らないと聞いていられないような話だった。

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