第4話 共鳴の瞬間

涼子の「虚無堂」への訪問が日常の一部となり、彼女はその場所から得られる内面的な平和を日々の生活に取り入れる術を学んでいった。それでも、彼女の心にはまだ解き明かされていない謎が残されていた。何故、この店が彼女を引き寄せるのか、そしてその声の主は誰なのか。


ある晩、仕事の疲れを癒やすため再び店を訪れた涼子は、いつものように暗闇に身を委ねた。しかし、この日は何かが違っていた。席に着くと、いつもの静寂ではなく、他の客の存在を感じるほどの僅かなざわめきがあった。涼子はこの新しい感覚に心を開き、周囲を意識しながら自分の感情と向き合った。


しばらくして、肩を一度たたかれ、飲み物が手渡された。その瞬間、隣の席から聞こえる微かな呼吸音が、涼子の心に不思議な共鳴を引き起こした。彼女はゆっくりとその飲み物を味わいながら、その呼吸のリズムに耳を澄ました。


食事が運ばれ、肩を二度たたかれた時、涼子は隣の客と目が合うような感覚に襲われた。暗闇の中で、視界は依然として真っ暗だったが、その瞬間だけは心の目で相手を見ることができたように感じた。


食事を終えた後、涼子は深い瞑想に入った。そして、静寂の中で再びその声が彼女に語りかけてきた。「あなたは一人ではない。ここに来るすべての人が、同じように癒やしを求めている。」


この言葉を聞いた涼子は、自分だけではなく、他の多くの人々も同じ悩みや苦しみを抱え、解決を求めて「虚無堂」に足を運んでいることを実感した。彼女はこの場所が単なる喫茶店ではなく、多くの心に寄り添い、支えを提供する場所であることを深く理解した。


目覚めると、涼子はまたもや外のベンチに座っていた。この日は、隣にもう一人、静かに目を覚ます人がいた。二人は言葉を交わさずとも、お互いの存在を確かに感じ取りながら、共に賽銭箱にお金を入れた。その共鳴の瞬間は、涼子にとって新たな始まりを告げるものだった。そして彼女は、この店とのつながりが、ただ自分自身を癒やすだけではなく、他者との繋がりをも深める場所であることを新たに認識した。

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