六十二言目 柚木原さんとカジノ

「そんじゃ第37回冬ヶ丘祭、開幕だーっ!!」


 午前8時、放送で鳴り響く富士野さんの声で文化祭は幕を開けた。ウチの学校のは毎年三万人以上を動員する、この辺だとかなり大きな文化祭。また地域とのつながりも結構強く、近所の人達からの差し入れもあったり、小学生の男の子が仮面ライダーベルトを巻いてきたりなんてのも。もちろん、普通の受験生も普通にたくさんいる。

 私と柚木原さんのステージは11時で、喫茶のシフトが12時から。取り敢えず三時間くらいは暇ということで、私達は色々見て回ることにした。


「どうする?柚木原さん」

「……あ、カジノ行こうよカジノ」

「大丈夫?沼とか置いてあったりしない?」

「大丈夫。あっても17歩とかだよ多分」

「じゃあプリンターとカメラもあるのかな」


 そんなことを話しながら件の教室へ向かってみると、そこにはどっかで見たような校章が。


「ねえ、柚木原さんあれって……」

「うん。賭ケグルイだね」

「負けたら家畜なのかな」

「お土産に名前入りの「ミケ」「ポチ」って書かれた札もらえるんじゃない?」

「勝っても家畜なんだ」

「まあ取り敢えず入ろうよ」


 ということで柚木原さんに手を引かれて教室に足を踏み入れると、賭ケグルイの舞台である私立百花王学園の制服を纏った生徒が私達を出迎えた。冬ヶ丘祭あるある、全然違う制服である。確か今年は制服って括りの衣装だけで30種類を余裕で超える、みたいなことを富士野さんがバットと槍と帽子を用意しながら言ってた気がする。


「いらっしゃいませ!何で遊んでいかれますか?」


 賭ケグルイはそれなりにしか履修してないからうろ覚えだけど、確か会計だった子が案内ボードみたいなのを持って尋ねてくる。「戦争」とか「生か死か」とか見覚えがあるギャンブルが並ぶ中で、柚木原さんは「じゃあ、これで」とブラックジャックを選択した。


「ポーカー……?!これだけ賭ケグルイオリジナルのを揃えたのに……?!」

「いや、違う!この中で最もシンプルなギャンブルといえるブラックジャックでこちらの技量を図りに来てるんだ!」

「そういうことか……!」


 説明してくれるタイプのモブ役もいるんだと少し感心しながらも、私達は奥のカジノテーブルに通される。チップは一組につき100枚で、報酬が500枚、1000枚、2000枚、3000枚、5000枚、そして10000枚で変わるんだとか。そして席に着いてから「このテーブル、よく用意したね?」と尋ねると、近所のフリーマーケットで2000円で売ってたらしい。すごい。


「あ、そういえばカンストってありますか?」

「カンスト……一応記録は5桁までですね」

「そうなんですね。了解です」


 ほんとよくやるなって感じの初音ミクボイスでお礼を言う柚木原さん。そんな中でマスクの子のコスプレをしたディーラーはルールの説明を始める。


「ルールは通常のブラックジャックのものと同様です。双方がバーストしていなければより21に近い方の勝利。プレイヤー側が勝利すればベットに加えて同額を払い戻します。21ジャストでの勝利であれば、ベットの1.5倍を、JとAの組み合わせ、すなわちブラックジャックならばベットの2倍、両方がクローバー、両方がスペードでのブラックジャックであればベットの3倍を加えた額の払い戻しとなります。また、双方が同値かつブラックジャックでは無い場合は枚数が多い方の勝利となり、通常通りに精算が行わますが、枚数も同じ場合は引き分けとなり、ベットを返還してのリスタートとなります。そして色に関わらず、双方でブラックジャックが成立した場合はベットに0.5倍を加えての払い戻しとなっております」

「……取り敢えず、結構甘い感じなのかな?」

「はい。あくまでも賭博ではなく遊戯ですから。ここからギャンブルの面白さにも踏み込んでもらえればと」

「でも、ブラックジャックが出たあとでもディーラーも捲るんですね」


 そう尋ねた柚木原さんに、ディーラーは「それがギャンブルです」と微笑んだ。


「それでは長ったらしい説明もここまでとしておきましょう。ベット、スタートです」


◇◇◇


「勝ったね、柚木原さん」

「うん。想像の5倍勝った」


 そう言って柚木原さんは1.5Lのコカ・コーラ3本とお徳用ビーフジャーキー2パック、500mLの生茶2本にうまい棒60本、そして10万チップの隠し景品「百花王学園生徒会長」の称号を獲得して凱旋する。結論から言えば柚木原さんが10分で9連勝で13万くらいチップを稼いで、本当になんも言うこと無いくらい蹂躙していた。定期的に柚木原さんはこういうところで「あ、そういえば完璧美少女だったな」と思い出させてくる。っていうかこれじゃあメズマライザーじゃなくてラビットホールじゃん。


「ね、咲楽。なんかいる?流石の私でもちょっと重いし嵩張る」

「じゃあコーラ1本とビーフジャーキーくらいは引き取るよ」


 そう言って私は柚木原さんから戦利品の一部を引き取る。


「柚木原さん、ああいうの得意なの?ギャンブルっていうか、カードゲームっていうか……」

「まあそれなりに。ブラックジャックは割と実力もあるしね。あれくらいのディーラーには負けないよ。……あとさ、もう少し持ってってくれない?」

「じゃあ、これで」


 そう言って私は柚木原さんの首元から百花王学園の校章が刻まれたペンダントを抜き取った。「あ、やっぱそれは駄目!」と抗議する柚木原さん。私達は成果物を置くため、一旦教室まで戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る