十二言目 柚木原さんとサービスエリア
「じゃあこの辺でお昼にしていこうか」
そう言って柚木原さんのお父さんは海老名サービスエリアの広い駐車場の一角にアウトランダーを止めた。休日の昼間ということもあって結構賑わっている感じで、意気投合した柚木原さんのお父さんと助手席に座る弟の椿樹が「俺なんか買ってきますか?」「いや、みんなで行こう。せっかくだからね」と言葉を交わしている。
今日の目的地は御殿場アウトレット。私と柚木原さんが「アウトレット行きたくない?」と話していたところ、柚木原さんのお父さんが「なら僕が車を出そう」と提案してくれて、さらに「なら俺も新しいシューズ買いたいんすけど」と椿樹が加わり、「ウチも色々見たいな」と柚木原さんの妹の一葉ちゃんが加わってフルメンバーと言った感じだった。
「へえ、なら柚木原さんのお父さんもサッカー好きなんですね」
「うん。まあ、当時の僕はインドア派でそんな勇気がなくてね。一年生なのに10番背負ってバリバリやってる椿樹くんみたいな若い子にはこの年になっても憧れるよ」
「いや、俺は恵まれてるだけなんで……環境に感謝っす」
「わー意識たかー」
「だね」
駐車場を行きながらおしゃべりしていると、私は「ああ、やっぱり」と思った。柚木原さんの口数が少ないのだ。車の中でなんて、わざわざLINEで「赤信号でも行けそうな信号機、SinGo機」みたいなこと送ってきてたし。
サービスエリアは中にも外にも色んな店が揃っていて、割りとちゃんと目が眩む。カルビーも気になるし、とんこつラーメンもお茶漬けもかなり美味しそうだし、外の屋台も外せない。そして何より海老名と言えばメロンパン。どれにしようかと考えていると、柚木原さんのお父さんは上物の革財布を取り出しながら口を開いた。
「みんな好きなものを買ってくると良い。お金は僕が出そう」
「え、いや。俺も姉さんもちゃんとお小遣い貰ってきてますし……」
「いや、奢らせてくれ。この年になると若い子に奢るのも楽しくなってくるんだ。あんまり使う暇もないしね」
ちょっと間違えれば自慢に聞こえるものをここまでさっぱりと言えるのはまさしくダンディー、イケオジと言ったところだった。年齢を聞くと四十台前半で、僅かに白んできたオールバックが良く映えている。あと柚木原さんの笑顔はお父さん似のようだった。
「どうする姉さん?」と私に判断を委ねてくる椿樹に「ここは甘えよう」と答えると、柚木原さんのお父さんは満足気に「ああ、是非そうしてくれ」と笑った。
「柚木原さんは何食べる?」
「うーん、私は……カルビーの出来立てとか」
「お、良いね」
「じゃあ、取り敢えず彩花に渡しておくよ」
そう言って差し出された五千円札を「ありがと」と柚木原さんは受け取り、私の手を引いて「行こ、咲楽」と彼女は少し早足で中へ向かっていく。私達の背中に一葉ちゃんが「ウチもお願ーい!」と声を掛けた。
「どうしたの柚木原さん?そんな急いでさ」
「だって父さん達いるとあんま喋れないじゃん」
「……なにそれ」
「良く考えたら父さんの力借りなかったらデートからのお持ち帰りまで狙えたのに、不覚って感じ」
「思ったより柚木原さん私の身体狙ってる?」
「駄目?」
「開き直らないでよ。それ柚木原さんだからぎり許されてるだけだよ?」
「あー顔良くて良かった」
「急にフルスロットルだね柚木原さん」
でも、そんなに私と話したかったのかなと考えると悪い気はしない。いや、身体狙われてるんだからそんなに良い気もしないかも。
そんなこんなで珍しい感じのカルビーのお店、カルビーキッチンに並んだ私達。番が来ると、私達はポテりこと桜えび味のポテトチップスを3つずつ頼んだ。
◇◇◇
「ただいまー」
「あ、お帰りお姉ちゃん、氷室さん」
「どうぞ一葉ちゃん、ご注文のアレです」
「……お、出来立てだ。すごっ」
そう言って一葉ちゃんは熱々のポテチを摘んで口に放り込む。はふはふしながらも「あ、ちょー美味い!」と目を輝かせるその様子は如何にも甲斐があった。
「そうだ、姉さん達にもメロンパン買っておいたっす。二人で半分こって感じですけど」
椿樹が差し出したメロンパンを受け取り、隣の柚木原さんに「食べる?」と尋ねると、彼女はポテりこを頬張りながらも、うんうんと首を強く縦に振る。私はパカッとメロンパンを割って、その片方を彼女に手渡した。
「……みんな食べ終わったら出発と行こうか」
柚木原さんのお父さんに、私は甘いメロンパンを頬張りながら頷いた。
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