隣の席の完璧美少女柚木原さんは本当はくだらない
あるふぁせんとーり
一言目 隣の席の柚木原さん
「……あとは12分の1公式が使えるので、答えは108です」
「正解!流石ね、柚木原さん!」
教室の中にパチパチと拍手が響く。彼女はチョークを置くと、当然ではありますがと言わんばかりに一礼し、静かに教室の隅の席に戻る。指先一つ取っても淀みないその所作に「やっぱ氷室さん凄えわ……」「ほんと才色兼備って感じだよね」なんて呟きが小さく聞こえた。
私は彼女が黒板に記した解法をノートに写すと、シャーペンを置いて頬杖を突く。ふと隣を見ると、スッと背筋を伸ばしてパラパラと教科書を捲る柚木原さんの姿。
相変わらず綺麗だな、なんて考えながら見ていると、彼女は何かを思い立ったように「あ」と小さく呟き、そしてこっちの方を向く。目が合ってしまい、僅かな気まずさを覚える私とは対照的に、柚木原さんは少し楽しげな様子で私の方に身を乗り出してくる。そして、二人の距離が筆箱に入った定規よりも近くなったくらいで、彼女はそっと、私にしか聞こえないように口を開いた。
「お茶を濁すQUEEN、まあまあー」
◇◇◇
私は
彼女は
けれど、何故か私だけが彼女が「くだらない」ことを知っている。
「よろしくね、柚木原さん」
高校入学初日。私と柚木原さんはクラスの端っこでたまたま隣同士だった。挨拶すると、彼女はニコッと微笑んで、小さく手を振った。恐ろしく綺麗な子だな、と思った。それと同時に、見るからに漂った「高嶺の花オーラ」が近寄り難さのようなものを発生させていた。けれど、そのオーラはすぐに剥がれた。
みんなそれぞれの席に着いて、一番最初のホームルーム。先生が話している最中、柚木原さんは私の肩をトントンと叩いた。「どうかした?」と身を乗り出すと、彼女も同じように身を乗り出し、そして私の耳元で優しく呟いた。
「ありあまるお坊さん、オーバーボーズ」
「プフっ?!」
私は、思わず吹き出した。その透き通るような、見た目通りの声と内容のギャップ。唐突な不意打ちに声を漏らしそうになった口を抑える私に担任の先生は「どうかしましたか?」と首を傾げる。私はあまり初日から目立ちたくないと思って、慌てて「いえ、何でも」と否定するが、柚木原さんはそこに追撃で「踊るかたつむり、舞々」と書かれた裏紙を見せてくる。私はまた吹き出した。
そして、思い出し笑いということにして何とか凌ぎ切った私を見て、彼女はケラケラと笑った。
「曜日を教えてくれる江戸っ子、さうすでぃ」
「ふふっ……」
日が経つごとに、彼女のスペックはどんどん明らかになっていった。勉強も運動も学年で一番。それに応じてクラス内で彼女の高嶺の花感もどんどん高まっていく中、柚木原さんはずっと私にくだらないことを囁いていた。そのうち、私は少しずつ彼女のことが分かってきた。
「えっちな田舎、ムラムラ八分」
柚木原さんは下ネタが好き。
「電柱って大きめのナナフシが混ざってるんだよ」
柚木原さんはカスの嘘が好き。
「クッキークリッカーを増やすゲームがあったらクッキークリッカークリッカーだよね」
柚木原さんはゲームとかも好き。
これは、本当はくだらない柚木原さんと、私のお話。
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