女は度胸だあ!

 絵里は考えながら、少しずつ話をし始めた。


『……僕は、気がついた時には海で泳いでたんだ。僕の名前?名前はね…そう、カツオっていう種類の魚の、カツ夫って言うんだ! カツオのカツ夫さ!』


「カツオの、カツ夫~? 変な名前~」


 男の子が、うふふと笑い、ホッとした絵里は自分に活を入れた。


(ちょっと名前、簡単すぎたかなあ……。でもいい。何となく出だしは好調だあ! さあ行け、私! まずは……主人公と仲間たちの様子?)


『……キラキラとした青い海の中でスイスイって泳いで、みんなで毎日一緒にご飯を食べて、クジラさんやイルカさんや他にもいっぱいの海の友達と一緒に楽しく暮らしてたんだ!』

「……!」


 男の子はニコニコとしながら、絵理の話を聞いている。


(名前、カツオのカツ夫って何なの?! でもよかった、興味を持ってくれてる)


 絵里はのんびりと話しながら、頭の中で必死にストーリーを構成していく。


(楽しい毎日の中で、突然訪れたピンチ。それを仲間達と一緒に解決するのはどうだろう。カッコいいところ、見せてあげたい)


『……でも、そんな時にアイツは現れたんだ。おっきな体の、シャチっていうヤツ。「おお、おいしそうな魚達がいるなぁ。腹も減ったし、お前らを、食べてやろうか」って言いはじめたんだ』

「カツ夫、食べられちゃうの?」

「こわいおさかなさんに食べられる?」


 不安そうな顔をした子供に、絵里は話をいったん止め、ゆっくりと微笑んだ。


 胸の前に人差し指を立てた。


 まだまだ、これからだよ!と。


『……みんなでシャチから頑張って逃げた。でも仲間の一人がもう逃げられないって時に、群れの先頭にいた僕らのリーダーが「逃げろっ! ここは僕にまかせるんだ!」ってシャチに体当たりをして、僕らを守ろうとしてくれたんだ!』


「りーだー、負けるな! やっつけちゃえ!」

「めーなの! はち、めー!!」

「僕もリーダーを助けにいく! 変! 身!」

「きゃいきゃい! あー!」


 わいわいきゃあきゃあ! とキッズスペースの端っこが大騒ぎとなった。絵里は子供達に微笑みながら、ツウ、と冷や汗を掻く。子供、増えてるよね? と。


 恐る恐る絵里が周りを見渡せば、子供達の父親、母親とおぼしき大人達もスペースの中と外で、微笑みながら見守っている。


 (え、ええええ、えーい! 女は度胸だぁ!)


 それでも絵里は、止まらない。

 子供達と一緒に、冒険譚へと。

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