第2話

過ぎた不幸を数えても仕方ない。

どうにかして回して、浮かび上がらなければ。

しかし、彼の店の繁忙期である秋も終盤、頼みの綱の天然きのこが記録的に不作だった影響で、十分な売り上げもないままに冬の足音を聞いていた。

離婚、交通事故、スズメバチにまで刺され、泣きっ面に蜂、しかし、それらを払拭出来る筈だった秋にはきのこの大凶作に一分一秒惜しんで働くなか、事故の影響で予定が狂い、ひとり住宅の明け渡しに間に合わせた不要品の整理や清掃作業。

良くやった方だ、では、いけない。

彼は焦っていた。

しかし、同時に住宅の明け渡しをなんとか終え、張り詰めていたものがぷつりと切れた気がした。

諦めなのか、ヤケなのか。

乱雑に不要品が取り残された住宅。

彼にはもう必要なかったが、そんな彼の生活サイクルには、いつでも寝床に入れて、明け方にでも都合良い時に風呂に入れた事だけ重宝していた。

しかし、その為だけに維持するわけにはいかない。

住所は店に置けるし、寝床は車で良い。

日のある時間すべて、仕事に充てなければならないんだし。

風呂だけが不便だ。

温泉の営業時間内に入らねばならないとなると、そのぶん仕事を削られる。

3分で行ける村の温泉でさえ。

しかし、臨時休館。

レジオネラが出たらしい。

近隣の温泉まで足を伸ばさなきゃいけなくなった。

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