ミステリーは突然に
雨宮 徹
ミステリーは突然に
図書委員である小田切は困り果てていた。今日は『君たちはどう生きるか』が無くなった。返ってきた貸し出し本の山を見ても、どこにもない。小田切が悪いわけではない。ここ最近、本が無くなるという事件が頻発しているのだ。
最初は単なる返し忘れだと思っていた。タイトルは『小説の書き方』。きっと小説家志望の人が借りているに違いない。そう考えて貸出一覧を見るが、誰にも貸し出してはいない。
翌日だった。今度は『田んぼのいのち』という本が消えた。文字通り消えたのだ。ここは都会だから、田んぼなんかどこにもない。
そして、次は『切り裂きジャック・百年の孤独』。島田荘司が書いたミステリー小説だ。まさに、本の消失も一種のミステリーだった。殺人事件なんていう物騒なものではないが。
無くなった本のジャンルは様々だし、著者にも共通点はない。小田切が困り果てていると、またしても消失事件が発生した。今度は『好物漫遊記』。いたずらにしては、タチが悪い。本好きの小田切には我慢がならなかった。何がなんでも犯人を見つけてやる。
そう意気込んでいたある日のことだった。親友の町田からこんな話を聞いた。「小田切、知ってるか? 同じクラスの吉田さん、お前のことが好きらしいぞ」と。
小田切はまんざらでもなかった。吉田さんに好意を抱いていたからだ。小田切と同じく読書好きで、気が合った。でも、もし告白してフラれたら、せっかくの関係が壊れてしまう。
その時、思い出した。この間、吉田さんが『小説の書き方』を読んでいたのを。これで一冊目の行方は分かった。吉田さんが勝手に持ち出したに違いない。『小説の書き方』? 何かが引っかかる。二冊目は『田んぼのいのち』だった。次の瞬間、一連の事件の真相に気付いた。消えた本のタイトルを順に書いていく。
『小説の書き方』
『田んぼのいのち』
『切り裂きジャック・百年の孤独』
『君たちはどう生きるか』
『好物漫遊記』
そうだ、これは吉田さんからのメッセージだったのだ。タイトルの頭文字をとると「小田切君好」となっている。次の文字を予測するのは簡単だった。「き」に違いない。勘違いでなければ。でも、この推理が当たっている自信はないし、本人に確かめるわけにもいかない。どうしたものかと考えていると、一つのアイデアを思いついた。これなら、間違っていても大丈夫だ。
小田切はタイトルが「き」から始まる本に片っ端から紙切れを差し込んでいく。「僕もだよ」と書いて。
数日後だった。「き」から始まる本を持って、小田切の前に吉田さんがやって来たのは。その微笑みを見て、小田切は確信した。自分の想いが伝わったのだと。
ミステリーは突然に 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
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