異世界から帰還した勇者、魔王の娘と共に生活する。

太刀華破壊

勇者、異世界から帰還する。

 俺の名前は朝馬勇一あさまゆういち

ある日のバイト帰りに俺は通り魔によって殺害されてしまった。


その日から俺は勇者アーサーとして、異世界へと転生した。

長い旅と戦いの末、見事魔王に勝利し異世界から帰還した。


「ははっ...やった...!やったんだ!!」


俺はとてつもない達成感を胸に拳を握りしめる。

と、共に大きな喪失感も感じた。


「でもこの世界には俺の活躍を知る人は居ないんだよなぁ...」


異世界の神に頼んで俺は、俺が殺害される1日前に戻して貰った。

俺は死ぬ運命を回避し、持ち帰った宝物を売り払ったお金で悠々自適な暮らしをするのだ。


「おそらく合計で10億くらいにはなるだろ...元々お金は使わない方だし...」


と、俺は宝箱を開いた。


「...ん...?あ、あれっ...?」


宝箱の中に宝物はなく、代わりに見知らぬ少女が一人入っていた。


「っすぅ~...あの~...」


「ん...」


...まずいことになった。

異世界から人を連れてきてしまった...


「どうしよう...これって何の罪になるんだ...?誘拐?それとも不法入国...?」


色々な思考が頭を巡る。

せっかく帰って来たのに警察に捕まるなんて冗談じゃない!


「え~...えっと...こんにちは?」


「おい、お前はアーサーがアーサーか?」


俺の向こうの名前を知っている辺り、異世界の住人で間違いないだろう。

しかし正直に答えて良いものだろうか?

あくまでも今の俺は朝馬勇一、ただの一般人である。


「えっと...アーサー?お嬢ちゃんどうしてこんな所に?ここは俺の家なんだけれど...」


「答えになってない、お前はアーサーか?」


この高圧的な感じどこかで...

俺は既視感を覚えつつも、何とか回避していく。


「あはは...ごめんごめん、俺は朝馬勇一って言うんだ!お嬢ちゃんの探しているアーサーって人はちょっとわからないかな...」


「アサマ...?お前はアーサーじゃないのか...」


少女はぶつぶつ独り言を呟きながら、なにか考え事をしている。


「えーっと、お嬢ちゃん...?」


「ふむ...仕方ない、おい人間...お前も勇者を探す手伝いをしろ。」


この少女は一体何を言い出すんだ...話してる相手が俺じゃなければ絶対やばい奴だと思われていたぞ...


「ゆ、勇者...?ご、ごめんねちょっと話についていけないなぁ...お嬢ちゃん家族は...?」


俺はあくまでもシラを切り倒す。

今更ややこしい事に巻き込まれたくない。


「...家族...家族は居ない、戦に敗れて死んだ。」


「そ、そっか...ごめんね...」


どうやらこの子は戦争孤児らしい、魔王軍との最終決戦は熾烈を極め人類側にも多大な損害をもたらした。


「...人間、なぜ泣いている?」


「い、いや...ごめんね?お嬢ちゃんのほうが辛いのにね...」


あの世界に平穏は訪れたとはいえ、全ての人が救われたわけではない事を改めて痛感した。

俺がもっとうまくやっていればもっと違う未来が...

なんて考えてしまった。


「...?わからない、父は弱いから敗北した、弱者が死ぬのは運命...そこに悲しみはなくあるのはただ憐みのみ」


「...」


どうやらあの戦いはこんな小さな女の子の性格すら歪めてしまったらしい。


「それで人間、協力するのかしないのか...どっちだ?」


「えっと...お嬢ちゃんはその...勇者?を見つけてどうしたいの?」


もしかすると何か俺にできる事があるかも知れない。

少女の目的を聞いてみることにした。


「我の目的はただ一つ...勇者アーサーを見つけ、一族の掟に従いつがいとなって子を成す。」


「...ん?え、えっと~...ごめんね?もう一回言って貰える?」


「お前は耳が悪いのか...?仕方ない...勇者アーサーを見つけ、つがいとなり子を成すのが目的だ。」


少女は真剣な表情で確かにそういった。


「そ、そっかぁ~...」


話し方や態度から察するにどこか小国のお姫様だったのだろうか...

宝物の運搬途中で紛れ込んで侵入したのだろう。


「えっと...ちなみにお嬢ちゃんの名前は?」


「名前...名前か、父亡き今名乗るような名など無いが...」


と、少女は少し考え込んだ後


「我の名はマオ・ウルティナ・ダークロード...マオ、もしくはウルティナと呼ぶがいい。」


「ダークロード...ダークロード!?」


それは俺が死闘の末討ち取った魔王の名前だった。

つまり目の前にいる少女は魔王の娘、ということになる。


「どうした人間、その名前に聞き覚えがあるか?」


「い、いやっ!?かっこいい名前だな...と思って!」


「そうか。」


マオと名乗る少女は心なしか嬉しそうな表情を見せた。


「それで人間、手伝うのか手伝わないのかどっちだ?」


「わかった...手伝うよ。」


俺の正体がアーサーだとバレていない事だし、このまま流していくのが最適だろう。

俺はこの少女の話に乗ることにした。


「感謝するぞ人間、目的が成就した暁には褒美を取らそう。」


「あはは...うん、楽しみにしておくよ。」


こうして俺、朝馬勇一(元アーサー)とマオ(魔王の娘)の共同生活が幕を上げた。

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