第20話 サーメデ
『さて、採取は済んだか?次の観察ポイントに行くぞ。』
[次は何がいるんだい?]
『〈判別不能〉の群れだ。〈判別不能〉が観察をしている。この星では一般的で普遍的な魚だな。どこにでもいる。』
[固有名詞は判別不能になっちゃうみたいだね。地球でいうと、ニシンやイワシみたいな魚ってとこかな。]
『判別不能になるのは仕方なかろう。地球ではそのような魚がいるのだな。〈判別不能〉は、あちらの方にしばらく行ったところにいる。』
そう言うと、シノノメは右下前方の方向を触手で差した。
「この星で一般的で普遍的な魚が、シノノメが指差している…っていうのも変だね。そっちの方向にいるみたいだよ。」
「了解。向かうぞ。」
しばらく潜航すると、サーチライトの先に小さい魚の魚群が見えた。ジョージは採取用カプセルを伸ばし、魚を捕えようとする。
「このまま真っ直ぐ行ったところで、捕まえられはしないだろ。網式で行くか。」
ジョージはそう言うと、船の両側前方から、網のついたロープを伸ばした。ロープの先端は操作でき、推進力のある小さな機械が取り付けられている。
ジョージは器用に網を操作すると、逃げ遅れた魚が何匹も網の中に入り、そのままカプセルの中まで誘導した。カプセルはそのまま、船の中まで持ち込まれた。
「おぉ!5匹もいるよ。流石ジョージだねぇ!」
「確かにサバみたいな形をしているわね。でも、目が無いわ。銀色で、体の表面が凸凹している。水の流れで周囲を感知しているのかしら。地球の魚だとひれが生えているあたりから、何本も長い毛のようなものが伸びているわね。触覚みたい。」
「体の幅が体高より狭くて、扁平な体だから側扁型の魚だね。名前はどうしようかねぇ。Clupeoidei《クルーピーオイディ》(ニシン科)とガニメデを組み合わせて…クルーピメディとかどうだろう。学名じゃなくてHerring《ハーリン》(ニシン)やSardine《サーディン》(サバ)と組み合わせた方が、わかりやすいかな?」
「クルーピメディ、学名っぽいわね。でもハーメデとかサーメデの方がわかりやすくないかしら?この星で学名と通称を分ける必要性も感じないわ。」
「サーメデがいいんじゃないか?なんかその辺にいる魚っぽくて。」
「じゃあサーメデにしようか!」
[5匹採れたよ。ありがとう!こちらでの名前は、サーメデに決まった。]
『サーメデか、いいのではないか?こちらの電波信号とも、それなりに似通っている。そうだ、ついでにサーメデを観察している者を呼ぼう。』
シノノメはそう言うと、触手をうねうねと動かしながら、おそらくこちらではない方向に電波を発したのだろう。
少し待つと、また別のガニアンが遠くから姿を表した。色は銀色で、サーチライトを反射してキラキラと輝いている。
『君たちが噂の地球人か。最初の魚に、我の観察している〈判別不能〉を選んでくれて、嬉しく思うぞ。』
[ここに決めたのはシノノメだけどね。大変興味深い魚が採取できて、俺たちも嬉しいよ。]
『ほう?〈判別不能〉はシノノメと呼ばれているのか。良いではないか。役得だな?』
『まさか我が、このような未だかつてない経験を得られるとは、夢にも思っていなかったよ。』
『それで?どのような扱いを受けたのだ?』
『最初から歓迎されたぞ。挨拶をした後は、しばらく問答だ。偶然だったようだが、我々の歓迎方法と一緒であったな。その後、あちらの方法でも歓迎したかったようだが、防疫とかいうもののせいでできなかったようだ。』
『それはそれは。よかったではないか。一時はどうなることかと思ったが、仲良くできそうだ。』
ガニアン達は、電波によるやり取り以外にも、触手をあちこち、いろんな形に動かしてコミュニケーションを取っている。
「やっぱり、面白いねぇ、ガニアン。多分触手でもだし、俺たちがわからないようにもやり取りしているんだろうね。だって、電波に指向性を持たせることもできるって、ショッキングピンクのガニアンが言ってたよねぇ。」
「触手でのやり取りは、人間が解明するには難しすぎるわよね。それに、ある方向にしか届かないように電波を送れるなんて、ちょっと信じがたいわ。」
「なんか楽しそうだな。うねうねうねうね動いてよ。いや、悪いわけじゃねぇがな?そろそろ次に向いたいんだが。」
「そうだねぇ。ちょっと通信に入れてみようか。」
[シノノメ、そして銀色のガニアンさん、そろそろ次に向かいたいと思うのだが、どうだろう?]
『おぉ、そうだな。久しぶりの邂逅だったもので、少々話が弾んでしまった。次に行こう。』
『行くのか。他の者たちともよろしく頼むぞ。』
[貴重な魚を見せてくれてありがとう!]
『この星では貴重でもなんでもないがな。』
銀色のガニアンは、笑ったように細かく触手を震わせると、ゆっくりと海の闇の中に去っていった。
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