第19話 初の海中探査

 ピンクがかったオレンジ色のガニアン、シノノメが基地に来て、ひとまず質問攻めをした。その後で全員の自己紹介も行った。

 落ち着いたところで、水中探査の準備が進められた。

 今回探査に向かうのは、パイロットのジョージ・エヴァンス、医者のアルベルト・ホフマン、生物化学者の立花里香に決定した。


『ジョージ、アルベルト、リカ、よろしく。我がこの広い海の案内人となって、皆に全てを見せることになっている故な。』


「いやー、本当のところどうなんだろうな。都合の悪いことは隠す気なんじゃねぇのか?」

「疑ったって仕方ないよ。今は仲良くいこう。地球初の異星人との交流だよ?」

「全く……私は海に潜ったら、捕獲した生物の観察をしなきゃいけないから、通信担当はアルベルト、お願いしていいかしら?」

「そうだねぇ。了解だよ。」


[よろしくね。もう準備はできてるから、ドリル付き潜水艦のところに行こうか。]

『了解した。さあ、向かおう!』

 シノノメは、どこかワクワクしているとでもいうように、触手を四方八方にうねうねさせている。


 一行はそのまま宇宙服を着て、基地から5kmほどの距離にある、潜水艦の元へ向かった。潜水艦に乗り込むと、密閉を確認し、各自宇宙服を脱ぐ。長時間探査かつ研究や観察をするには、宇宙服は邪魔だからだ。


「さて……準備はいいか?揺れに気をつけろ。」

 その言葉に2人が答えた瞬間、ガリガリ、ジャリジャリという、氷を割る音が聞こえた。


『おぉ!そのように動くのか。このようなものを作るなど、人間はすごいなぁ。』

[物を作ることが人間の特徴と言われているよ。その中でも、これはそういう分野に特に詳しい人が作ったものだからね。]

『なるほどなるほど。興味深い……』


 通信で入る茶々を尻目に、ドリル付き潜水艦はずんずんと潜っていった。削られた氷のかけらが、低圧によって煙のようにどんどん昇華していっている。

 窓は船体の前面に大きく1つ、側面に2つずつあり、そこから氷のかけらがもうもうと舞い上がっているのが見える。

 3時間後、ついに150kmの氷の層を破ることに成功した。

 どぷんという音と共に船が揺れ、水の中に入ったことがわかった。


「わぁ!ついに海の中ね!暗くて何にも見えないわ……」

「サーチライトをつけるぞ。」


[ついに海までたどり着いたよ。シノノメもおいで。]

『実はもう共にいる。潜水艦の上に立っていた故。』


 サーチライトに照らされるが、前方には海の水以外に何も見えない。

 と思いきや、ピンクがかったオレンジ色の触手が、窓の横から数多く、うねうねと泳いできた。


『うむ。海中は落ち着くな。この辺りでもいいが、もう少し潜って右に少し泳ぐと、〈ツキマリ〉がそれなりに多く漂っているところがあるぞ。』


「だそうだよ。距離を示す単位も、共有しておけばよかったかもねぇ。」

「了解。その辺は今からでも遅くねぇだろ。適当に潜るから、その距離をこっちの単位で教えてやれ。」

「了解だよぉ。」


「下降3m、3時の方向2m。」


[今下に向かって3m、右に向かって2m進んだよ。君たちも距離の単位はあるだろう?僕たちはこう言ってるんだ。]

『なるほど……我々は、海中ではあまり距離を気にしていない故、方向だけで物を伝えているな。』

[おっと、そうなのかい。じゃあそれでもいいけど、僕たちにとっては距離が結構重要だから、覚えてくれると助かるな。基地から潜水艦までは、約5km、約5000mだよ。]

『少しわかりづらいな。氷上に戻った際、もう少し詳しく教えてくれ。』

[了解。この辺りに〈ツキマリ〉がいるのかな?]

『そうだ。あちら側から海流に乗って流れてきている。』


「ジョージ、この辺りで採取するといいみたい。あと、距離の単位はなさそうだよ。」

「なんだって?それは少し厄介だな。まあそのうちというか、このままでもなんとかなるっちゃなるから、まあいいさ。」

「少し水が濁っている気がするわ。あの辺りに〈ツキマリ〉が漂っているのね……アルデバクテリアとでも呼ぼうかしら。」


 ジョージは潜水艦を操作し、外部取り込みカプセルで海の水ごと採取した。細かい網で海水を少し濾過し、できるだけ沢山の微生物をカプセルに入れる。そのカプセルが船内に持ち込まれた。

「ふーん……顕微鏡がないと観察は無理ね。簡易成分検査機で少し検査しておきましょう。」

 里香はそう言うと、カプセルの開口部から少量の海水を採取した。その後、カプセルは船体後部の格納庫に収納した。

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