虹彩のアルケミスタ
@xtokaito
1章「お子様にされて・・・」
第1話
----- 20xx年 7月 日本
鬱陶しい梅雨が過ぎて、暑苦しい夏がやってきた頃。
自堕落な日々を過ごす40過ぎのおっさん、それが私。
「兄、邪魔」
今のソファーで寝っ転がりながらオンデマンドでアニメを見てると、めんどくさそうに2番目の妹に言われる。
「はいはい」
追い出されるようにソファーから逃げて、テレピのアプリを止めると、チャンネルはすぐに切り替わり音楽番組が始まる。
テレビ見たかったんかい。
まぁ仕方ない、部屋で見るか。
そう思って、テーブルに置いてあったスマホをポッケに入れて、自室のある2階に向かう。
途中動いたらおトイレに行きたくなった。
10代の頃は絶対サラリーマンなんかやんねぇ。
そう思って20代で自営業の真似事をしてた時期もあったけど、500万ぐらい借金作ってあえなく終わる。
倒産して借金踏み倒して30代で家庭を作るとそうも言ってられず、3年前ぐらいまで嫌々やってた気がする。
お家のストレス、家族のストレス、仕事のストレス。
ストレス社会にはパーッと飲み歩いて解決やー。
なんて自堕落してたら、10年で30kg太って心筋梗塞一歩手前でぶっ倒れて入院。
その頃の家庭は、子供も居たりして大変だったけど、壊れたATMは用無しと首切られて、離婚してから心も荒んで実家に帰ってきた。
枯れた心に続く事も無くて休業補償とかもろもろ食いつぶして、身体も無理は効かんから無職のごくつぶし状態だね。
実家は少し前に父親も亡くなったけど、母、妹3人、長女の子供の姪っ子と甥っ子でいい感じで暮らしてた。
割り込んできたのは出戻り長男と言う感じ。
女が優勢な家族構成なのでトイレの立ちしょんはご法度だ。
パンツを下して、便器に座ると用を足す。
なんとなく見てたアニメの続きは、妹に水を差されてどうでも良くなってた。
ちょろちょろ済ませてから立ち上がる。
パンツ上げたぐらいのタイミングだった。
「おー、釣れた釣れた」
いきなり後ろから若い雰囲気の男性の声がして「うぉ!」と声を上げた時、少し暗い豪華な椅子がポツンと一脚おいてある空間にいた。
「おおっ?なんだ?」
気が付いた時には、見える景色が変わっててマックスで混乱する。
「ん-どれどれ。なるほどね」
背後から来たブロンドの髪の毛に青い目の西洋人ぽい男に眺められる。
「うぉ!誰だ?お前は」
「ははぁん、誰と聞かれたら答えましょう!僕はレスティトーラーだよ!夏樹海斗君」
じろじろと観察されながら、若い男は嬉々として名乗られる。
こいつ、初見なのになんでフルネームを知ってるんだ・・・
「ふむふむ、僕の正体が謎めいてて不思議なんだね?」
うぉ、表情を見て心理を読まれたか。
「まぁ、いいさ。とりあえずズボン上げて、こっちについてきなよ」
そう言われて、トイレの後でパンツを丸出しだったのに気付いた。
ひも付きのハーフパンツを急いで上げて、ひもを締める。
すると、豪華な椅子とは反対側にある、光が差し込んでいるアーチ状の出入口に立って、レスティトーラーがこっちこっちと手招きしてた。
仕方ないので花の飾りが付いた暖簾をくぐってアーチから出ると、眩いほどに明るくて遠くは雲か霞がかかって見通せないような場所に出る。
これは、日本の一般的住宅の2階のトイレから出た時の景色じゃないな。
歩を進めるレスティトーラーにしばらくついて行くと、レスティトーラーはかまくらみたいなドーム状の建物の中に入った。
かまくらのアーチをくぐると、大理石の様な床でバカデカい円形の吹き抜けとなったエントランスに出る。
吹き抜けは屋根の様な物は見えないぐらい階層が上に続いていて、古風な木造の手すりが付いた大きな螺旋階段が上に続いている。
外観と内部の空間の大きさが違いすぎて違和感しかない。
「ほらほら、早くおいでよ」
壮大な景色にあっけに取られて立ち止まっていると、レスティトーラーは螺旋階段を一段上がったところで手招きした。
招かれるままに螺旋階段を上がると、いきなり螺旋階段はエスカレーターの様に上がり始める。
「僕の部屋に行くから、安心してね」
レスティトーラーはそう言うと、螺旋階段の上がり方が一気に早くなり、高速エレベータの様な速度で上がり始めた。
遠心力で吹き飛ばされそうになるような事はなかったが、立ってる所は螺旋階段だ。
見える視界がグルグルととんでもない速度で回るので、見た目で酔って吐き気がしてきた。
「あら海斗君、目が回ったかい?」
レスティトーラーは笑いながら見つめてくる。
すると、螺旋階段の回転が止まって、豪華な椅子が置いてある部屋に着く。
部屋の天井には、エントランスホールよりも大きいサイズの、金色のジャイロスコープが付いた真っ黒の球体がゆっくりと回っている。
螺旋階段の回転が止まって安心したら、気持ち悪くてゲップが出た。
「さて、海斗君にはいきなりで申し訳ないんだけど、僕の頼まれ事をお願いしたいんだ」
レスティトーラーは豪華な椅子に腰かけて言う。
その声を聞いた私は、3D酔いっぽい感覚が急に醒めて楽になる。
「はぁ・・・本当に急な話だな」
「ホントね!やってくれるなら出来る限りのお膳立てはするけどね!」
うーん。これはきっと異世界への冒険のお誘いフラグか。
「何のお願いなのかは、教えてくれるのか?」
「そうだね!【ネフステトイスヒヨリ】を探して伝言をお願いしたいんだ」
「・・・人を探して伝言?」
「そうなんだよ」
レスティトーラーは椅子のひじ掛けに頬杖をついてジッと見つめてくる。
「ネフステトイスヒヨリは元々、自分の作った花畑の世界で引きこもってたんだけどね」
「花畑に引きこもり?」
なんとも香ばしいキーワードが出てくる。
「ネフステトイスヒヨリと【カティクオス】と合わせて3人で【レクティオス様】って偉いお方に、この場所の管理を押し付けられたんだよ」
「えぇ・・・管理って、押し付けるとかそう言うもんなの?」
「レクティオス様は偉くなって上に行ったからねー、後の引継ぎはお前達でヨロシクって事だよ」
ケラケラと軽い笑い声をあげながら、レスティトーラーは話を続ける。
「そしたらね、いつの間にかネフステトイスヒヨリは居なくなってさ」
「管理が出来てれば問題なさそうだけど・・・」
「いやぁ、それがねぇ」
レスティトーラーは少し困った顔をして右手を宙に掲げると、何もない空間から地球儀みたいな物が現れる。
その地球儀には、北極点とは少し離れた場所に一口大に切ったブロッコリーぐらいの緑の樹が生えている。
「ネフステトイスヒヨリが居なくなった時に、そのブロッコリーみたいな置き土産して行ったんだよ」
「おおぅ・・・で、ブロッコリーがなんかマズイのか?」
「ブロッコリーが調子が悪いよ!って言ってるらしいんだけど、ネフステトイスヒヨリが居ないから治し方が分かんないんだよ」
「えぇ・・・ブロッコリーって喋るんだ」
レスティトーラーは悪戯な表情をすると「そうだよねー」と相槌を打つ。
「カティクオスも忙しいみたいだからさ、この星に居るらしいネフステトイスヒヨリを探して「ブロッコリーがヤバい」って伝えて欲しいんだよね」
「ブロッコリーで通じるのか?」
「んー、大丈夫じゃないかな?」
「まぁ、星の北で育ってるデカい樹って言えば通じるかなぁ」
「イイね!海斗君は理解が早くて助かるよ!それじゃよろしく頼んだよ!」
「はぁ?」
それを言ったレスティトーラーは満面の笑みだった。
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