おっっっっさーーーん 仮

とっぴんぱらりのぷ〜

第1話 決戦は金曜日

 スマートフォンのアラームで目が覚める。誰に起こされることもなく、隣に愛する女性がいる訳でもなく、いつもと変わらない朝を迎える。


「よし!金曜日!」


 自分の他には誰もいないアパートの一室で、嬉しそうに声をあげてしまう。そんな自分に苦笑いを浮かべ出社の準備をする。

 会社に行くのは面倒くさいが、なにせ今日は金曜日だ。オールナイトで“迷宮”に潜ることができる。

 簡単に朝食を摂り、出勤するためにバス停へと向かう。かなり早めに出ているつもりだがバス停は相変わらず大混雑である。

 地下鉄が使えなくなってから二十年経つが、交通の便は改善されていない。政府は新たな交通網を作るより住民の都市離れを待っているのだろう。


 しばらく待ってから乗車率二百%はあろうかというバスに乗る。途中あちこちに停車しながら、会社のある西新宿へと到着する。息苦しかったバスの中から解放され外の空気を思いっきり吸い込む。

 二十年前とは比べものにならないほど新鮮な空気を味わう。化石燃料がなくなった現在では空気を汚す原因が全くない。全ての動力は迷宮から産出されるマジックエナジーストーン、通称MESメスより得ているからだ。


 バス停から歩いて数分で勤務先のオフィスビルへ到着する。

 定時より早めの出社だが、別に仕事熱心なわけでもなく、むしろ仕事ができない影の薄いオッサンだ。もはや、煙たがられもしない。


「おはようございまーす」


 定刻前なため人もまばらなオフィスで小さく挨拶をしながらデスクへ向かう。もちろん誰も挨拶を返してくれない。

 パソコンを起動する。今となっては普通のことだが、二十年前の第二次世界恐慌の直後では考えられないほど元の生活に戻った。

 特にする仕事もないためネットサーフィンで第二次世界恐慌について検索し適当なサイトをクリックする。


 概要

 世界大恐慌せかいだいきょうこうとは、2018年に世界規模で起きた、化石燃料の消失、発電の無効化によって全世界が恐慌状態となった事件である。


 原因

 20年経った現在でもその原因は不明なままである。一部の専門家からは太陽フレアによるものという意見も出ているが、化石燃料が消滅した以外に物的な被害はなく否定的な意見も多い。また、新たなビックバンによる法則の変換という意見もあるがオカルトの域を出ない。


 この事件における被害者数

 電気の代用としてMESが発見されるまでの全世界の関連死者数は、およそ20億人と言われており、被害者数は人類全体の約60億人(電気に頼らずに生きてきた一部の部族を除く)である。


 迷宮化について

 事件後、世界各地で地下施設の一部がジャングルや坑道のように変化するといった事象が起きた。これが迷宮化である。

 迷宮化した地下には、地上には存在していなかった凶悪な獣が棲み着いており、迷宮から溢れ出すこともしばしばみられていた。


 MESマジックエネルギーストーンについて

 迷宮から採掘される鉱石であり、迷宮に棲みつく獣の体内にも存在する。一般的に採掘で得られるMESよりも獣の体内で結晶化されたものの方が魔素が蓄えられており高値で取引されている。

 魔素を専用回路に流す事によって動力を得られ、通信も可能となった。


 日本における迷宮化

 現在、日本では地下鉄の全てが迷宮化しており、その規模は年々拡大傾向にある。

 世界大恐慌後の政府の対応として、地下鉄の封鎖、新たな高層ビルの建設の中止、迷宮への自衛隊派遣を行ったが、迷宮内では銃火器が使えないことが派遣後に判明し、多くの自衛隊員が帰らぬ人となってしまった。また、自衛隊だけでは迷宮から溢れ出す獣を処理しきれず、MESの産出量も増えないため、2025年よりライセンス制の探索者組合を設置、現在はライセンスを取得できれば誰でも迷宮に入ることができるようになった。


「ふぅ」


 大きく息を吐くが誰も気にしない。途中あちこち飛んでしまい、気づけば仕事をしないまま昼休みになっていた。

 一旦、ページを閉じて俺は昼食へ出かけることにした。

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