8 処女膜も再生するんですか?


 ~3行でわかる前回のあらすじ~


 魔王討伐パーティ結成!(ソロ)

 勇者抹殺のために敵四天王襲来

 騎乗位で貫かれるサキュバス


 ~以上~


 今朝、起床した椿己の瞳に飛び込んできた光景は異常なものだった。

 サキュバスが自分の腰にまたがり、椿己の股間から生えた剣(文字通り)に貫かれていたのだ。

 

「魔族って不死身なのか?」

 椿己は今、サキュバスを目の前に見下ろしていた。

 このサキュバスは今朝、死んだものだと椿己は思った。騎乗位だとか変態的な説明をしているが、このサキュバスは実際には確実に剣に内蔵を貫かれ、血反吐すら吐いていたはずだった。

 人間の常識で言えば、即死で間違いのない怪我を負ったはずだ。

 しかしこのサキュバスはピンピンしているように見える。今朝の出来事の割に、命の危険を一切感じさせず、それどころか目立つ負傷箇所はどこにも見受けられない。

 さらには服を汚した血反吐すら、跡形も無く消えていた。

「魔族の生命力は基本的に人間より上ではあります。しかしこの再生力は異常かと」

 騒ぎを聞きつけた王妃は、この場に現れたかと思えば、害虫を見るような表情でサキュバスを見下ろした。

「きっと害虫の中でも位の高い害虫なのでしょうね。けっ」

「害虫て……」

(なるほど、王妃は魔族のことを害虫と呼んでいるのか。妖精になったハルを害虫扱いするってことは、この世界だと妖精も魔族の一種なのかもな。やっぱこの人をハルに近づけちゃだめだな)

「それよりも勇者様」

「はい、なんでしょー」

「魔族の中でも上位の力を持つサキュバス……随分とタイムリーな話だとは思いませんか?」

「…………………………なんだっけ?」

 首をかしげる椿己を見て、王妃は嘆息を一つ。

「昨日の話を思い出してください。魔王を倒すにあたって、立ちはだかる存在の話をしたかと思います」

 ポクポクポク……と考えること十数秒。椿己は思い出したのか、拳を逆手のひらにポンっと置いた。

「あー! えっちなサキュバスが四天王の一人って話を昨日した気がする……ってこいつが!?」

 改めて、目の前で縛られているサキュバスへ視線を向ける。サキュバスは上目遣いで椿己のことを見返してきた。

「うふ♡」

「いらっ」

 椿己と目が合って、笑みを浮かべたサキュバスを王妃が無言で蹴り始める。

「何故、勇者様の抹殺を目論んだのですか? どうやって魔族除けの結界を抜けて侵入したのですか? 拷問部屋に案内する手間を、私たちにかけさせないでください」

「もう拷問始まってる気がしますけどね」

 王妃は主に顔面に蹴りを入れ続ける。しかし一切のダメージが無いのかサキュバスは笑みを浮かべ続けていた。

「少しお待ちを。ギロチンの刃を引っこ抜いて持ってきますね」

「サキュバスのあんた。王妃様にギロチンでサイコロステーキにされる前に質問には答えた方がいいと思うぞ」

 椿己がサキュバスにそう声をかけると、サキュバスは椿己へ微笑みを返した。

 今となっては、目の前にしているサキュバスからは敵意というものを感じない。

 それどころか、好意すら抱いているように見える。

「あんたは、本当に魔王軍の四天王なのか?」


「そうよ♡」

 サキュバスは隠すことなく言い放った。いきなり答え始めたサキュバスの様子に、扉に手をかけていた王妃は足を止めた。


「私は魔王軍が四天王、サキュバスのエル。以後お見知りおきを、勇者様♡」

「俺には素直に話してくれるんだな」

「ええ、だって私の……初めてを捧げた男性ですもの♡」

 サキュバス――四天王のエルは、椿己の股間から生える剣を見つめては顔を赤らめている。

「いらっ」

 すると王妃はドアノブを引きちぎってエルにぶん投げた。

「とりあえず、勇者様の質問には答えるというのなら拷問の必要は無さそうですね」

「そ、そうですね」

 椿己は内心ほっとした。

 昨日まで普通の青年でしかなかった椿己が、いきなり勇者になった挙句戦争に巻き込まれて拷問だとかそんなの嫌だったからだ。

「とりあえず穏便に、質問をします」

「ええ、勇者様。聞きたいことはたくさんありますが、先ずは最初に聞かなければならないことを聞きだしましょう」 

 椿己は深刻な面持ちで大きく頷いた。

 椿己はしゃがみこみ、縛られたまま座り込んでいるエルと目線の高さを揃える。真剣なまなざしをエルに向けると、エルもまた眼差しを指し返す。

「最初にして、一番の疑問だ。答えてくれるな?」

「勇者様のためならもちろんです♡」

 

 椿己は大きく息を吸い込むと、一番聞きたい――その問いを口にする。


「処女膜も再生できるんですか!?(くそでかボイス」

「もちろん!!♡(くそでかボイス」


 椿己はキレた王妃の拳が眼前に迫るのを見た。

 頬骨に拳がめり込んでいく、しかし椿己のその表情はどこか満たされたものだったという。


 

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