Vim

Vi(m) is 何?

 さて、この節から Vi(m)の話をしていきましょう。と言っても、実のところ詳しく話すならQiitaやZenn(どちらもエンジニア向け記事共有サービス)に行けと言われること受け合いですので、 Markupの話に比べると話すことはあまりありません。 Markupの時点でそうだと言われれば、それはそうです。


 しかし、他のエディタと比べてのVi(m)の特異性が人間の思考に非常に相性が良いことと、筆者がVimユーザーということもあり、紹介をさせていただこうと思います。一般にはデータを編集するソフトウェアはエディタなのですが、ここでは特に文字データを編集するソフトウェアをエディタと呼びます。


 ちなみに、このVimに関しては KADOKAWAから「実践Vim 思考のスピードで編集しよう!」という本が出ています[14] 。と言うと、媚を売っているように見えるかもしれませんが、実際この本はVimを使い慣れてきてから読むと非常に使いやすいTips集となっているため、もしもあなたがVimを気に入ったならばタイミングを見て購入を検討することをおすすめします。


 さて、 Vi(m)について何から話そうかということで、慣例に則って[要出典] Vi(m)の歴史から始めましょう。


 Vi(m)の血統を過去にたどっていくと、 edというエディタにたどり着きます。このedは人間で言えばエチオピアのルーシーの伝説のようなもので、今のエディタの祖となるラインエディタと呼ばれるエディタの1つです。これの類のエディタはコンピュータと愛を語らうようにファイルを編集するエディタで、優しく諭してファイルの中身を見せてもらい、その頬を撫でるように文章を追記しなくてはいけません(嘘だと思うのならば、実際に使ってみると良いかもしれません)。それはそれでロマンチックなのですが、効率という意味ではあまり良くありませんでした。


 その後なんやかんやあって(間にexというエディタが挟まるのですが、これもラインエディタなので省略します。ただし、 exの名前はVi(m)の中に確かに残っています)、 Vimの直接の先祖である Viが登場します。このViはスクリーンエディタと呼ばれる類のエディタで、私達が現在において広く使っている、文字をスクリーンに映すタイプのエディタです。しかし、他のスクリーンエディタとViが決定的に違ったことは、懸命にもラインエディタの特徴を残したまま進化したことでした。


 今や巷にあふれるエディタは進化の過程でファイルに対する直接的な操作を退化させ、保存機能や検索機能の一部としてその痕跡を残すのみになっています。一方で、 Viとその子ども達はファイルに対して何をしたいのかという信念を明確に保ったままで進化したのです。


 これはさながら、両生類から爬虫類、鳥類と哺乳類へと進化してきた系列に対する、魚類のまま進化した一部の系列と同じことです。確かに、地上に動物た彼らは、直接的操作を退化させたスクリーンエディタ達と同様に繁栄しています。しかし、その生息可能域の体積で言えば他の全ての脊椎動物をあわせたところで魚類には遠く及ばないでしょう。 Viの子ども達はまさに、ブルーオーシャンを泳ぐエディタなのです。


 さて、 VimがViの子ども達の中でどのような立ち位置かというと、さながら「コイ」のようなエディタと言って良いでしょう。 VimはViのシンプルさによる巨大な海こそ捨てましたが、代わりにカスタマイズという淡水に住むことができ、ウグイのように過酷な環境に耐えることもできれば、ヒブナのように人に寄り添うこともできます。


 Vimのカスタマイズ性は単純な組み込みの機能にとどまらず、プラグインを入れることも考慮すれば、エディタに求められるすべての機能を実現することができるでしょう。


 似たような汎用性を持つエディタとして Emacsというエディタの名前が挙がることがありますが、あれはぽっと出てきたエイリアンみたいな奴なので気にしないでいいです。


 というと一部怒りそうな人がいるかもしれないので、簡単に説明すると、早めの段階でedとは別のラインエディタからスクリーンエディタに進化したエディタです( Wikipediaの説によれば、 TECOという名前のエディタが祖先のようです)。そのコマンド群は Viよりも多機能なのですが、その機能の多さから、カスタマイズの困難さがつきまといます。とはいえ、ある年代までのノンカジュアルなコンピュータユーザは両方のエディタを使った経験があると思われます。実際、筆者もWindowsのメモ帳の次に使ったエディタはEmacsでした( ViとEmacsの詳しい違いについては「エディタ戦争」を WEB検索のこと)。


 VS Codeの話はしません。


 しかし、ここで筆者は残念な真実をあなたに伝えなくてはなりません。もしも、あなたが何も知らず、クリスマスにデパートにやってきた少年のように目を輝かせながら、 Vimを赤い服の超人から受け取ったとしましょう。その中に含まれる vim.exeかgvim.exe をあなたがプレゼントの包装を剥くように起動したとして、あなたはタイプライターを前にした猿のような行動(つまり、乱数を使ってシェイクスピアを書くということ)を取らない限り、ファイルの編集を始めることはできないでしょう。


 これは、デパートの赤い老人があなたを苦しめようとしたわけではありません。


 むしろ、これこそが Vimがラインエディタから受け継いだ福音である「モード」の概念によるものであり、そしてこのモードこそが文書の執筆に真に必要なものなのです。

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