引用するということ

 通常の執筆という点では、ここまでで紹介した機能でほとんど十分かもしれません。しかし、もう1つ紹介したい機能が存在します。


 もしもあなたがせっかちでなければ、例文内の「 \begin{thebiblioglaphy} ... \end{thebiblopgraphy} 」の部分が「参考文献」という章になっていることに気がついたかもしれません。 \bibitem{...} がどんな記号になっているかも含めれば、この部分の役割は次のどちらかでしょう。すなわち、ランダムな番号を割り当てるルーレット機能か、参考文献をナンバリングする引用機能です。


 前者の機能もそれはそれで面白そうですが、答えは後者の引用機能です。


 小説や詩歌を書く際には引用をゴリゴリと引くことはあまりないでしょう( [a]: ただし裁判をテーマにした作品は除く)。


 しかし、引用の本領は情報の流れの明確化にあります。言い換えるならば、情報の追跡性を担保することにあります。


 創作をした方の多く(少なく見積もっても、アルビノでないライオンのライオン全体に対する割合程度)はこの時点で何を言いたいか察しているかもしれませんが、わずかな方(つまりアルビノのライオン)のためと、この節の文字数を稼ぐ都合のために続けますと、引用を手軽に扱うことで得られるメリットが存在します。


 それは、創作物の設定資料の作成が非常に楽になるということです。


 創作をした方の多くは、ある作品を作るにあたって何かしらの調べ物をしたことがあるでしょう。もしあなたが、現代美術か即興制作を専門にしているのでなければですが。


 調べ物をして、作品に活かすのは良いことです。三人寄れば文殊の知恵、 WEBに繋がっている機器は2020年時点で 253億台[4]ですから、ざっと換算して84億文殊程度の知恵はあるでしょう。世界の人口より多いのは、おそらく猫やゴキブリのような真の支配者層の端末分だと思われますから、実際はもう少し多文殊かもしれません。


 しかし、筆者がこの部分を書く 3000時間前(ヒトの記憶が保存されると期待される時間としては短い見積もり)に何をしていたかを思い出せないことを踏まえれば、この膨大な文殊の知恵から同じ情報を2回続けて引き出すことは、通常は困難と思われます。


 それを打開するために私達が先祖から受け継いだ秘伝のタレ、それは参照した文献をメモすることです。


 半年前に美味しそうに見えたステーキ肉が、今は美味しく見えないことがある(時には冷蔵庫に入れていても!)ことから明らかなように、同じ文献を後から見て同じ知識を得ることは必ずしも可能ではありません。しかし、どこからその知識を得たかを追跡できるようにすることは、整合性という意味では重要です。そのステーキ肉は間違いなく冷蔵庫で半年寝ていたのですから。


 とはいえ、そのステーキ肉が食卓に乗らないように、文献のメモも作品中に出てくることはありません([a])。多くの場合は設定資料として創作者の手元に残ることになるでしょう。だからこそ、この文献メモは読者に見せることを考えずに書くことができるのです。


 ならば、 TXTファイルにだらだらと書かなくてはならない道理はありません。あとから見返す際に見やすい形で書けば、あとから見返す際に見やすいでしょう(これは悪い例)。


 その点で、引用機能がサポートされた形式、例えばこのLaTeXや HTMLで設定資料を書くことは理にかなっていると言えます。


(知識があれば HTMLでも可能なことですが) LaTeXは見出しごとで区切られた階層構造の目次を作ることが可能ですし、引用情報や外部へのジャンプ機能を付け加えることも可能です(ここでは説明しませんが、hyperrefというキーワードが役に立つでしょう)。


 手元で自分しか使わないものだからこそ、自分が使いやすい形式で設定をまとめておくことは、創作活動において過去の自分に毒づく頻度を減らすことにつながるでしょう。

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