地獄にまつわる事柄(あるいはたとえ灰になっても)
上面
第一話
人間には与えられた配役がある。例えば私はこれだ。
都内の少し古いラブホテルの一室で相手を待つ。思えば私の人生とは待つことだった。内装は古くなってきているが、よく掃除されている。当たり前か。
「待たせたね」
むせ返るような焦げた匂いが部屋に入ってくる。匂いに遅れてデリヘル嬢のように薄着の女が私の部屋に入ってきた。見た目は黒髪をミディアムボブに切り揃えた二十代のように見える。実年齢は四十代らしいが、そう言われなければ誰も気づかない。乳はあるかないかの大きさだ。
身体に叩き込まれた感覚が自然と私をベッドから立ち上がらせる。敬礼する。
「盗聴器の類いはありません、
「ご苦労。じゃあ報告して」
それから私は自分の今の職場の情報を伝える。
私は今、一般的に反社会的勢力と呼ばれるものに所属している。そしてそれはスパイとしてである。私は潜入捜査官だ。戸籍も顔も名前も全て変えて、
「結局クソアマや
「申し訳ありません」
形式的とはいえ、謝罪の言葉を口にする。
「謝らなくていいよ。他のみんなも同じくらいの成果しか上げてないし」
他。私と同じように
「あー、一応デリヘル嬢のていで来ているわけだし、チンコしゃぶる?」
何を言っているのだか。一応言ってみただけのようだが、言った段階で苦虫を嚙み潰したよう表情になっている。うっかりその気になられたら不味いと思っているようだ。最初から言うな。
「セクハラで訴えますよ」
畏敬の対象であり、我々の
「ふざけたこと言ってごめんね。僕も正直足の遅い男の人には魅力を感じないし……」
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