【短編】黄昏時刻に起きる姫

松下一成

【短編】黄昏時刻に起きる姫

 かつて人々は自分の居場所を確かめるため、毎朝起きると朝日に向かって祈り、日が暮れる頃に夕日に向かってお辞儀をしていた。しかし、今はそれもしなくなってしまった。


 時代が変わって、文化が変わったから。


 朝日が昇ると同時に一人の姫が目を覚ます。彼女は右手にフォーク、左手にナイフを持ち、空中でフォークをくるくると回して朝日の輝きをつかまえると見事にナイフで切り分けていく。


「あなたには、これ、君には、これだけね」


 人々に輝きを切り分け与えていくのが彼女の姫としての業務。姫としての責務。


 圧政を強いず、国民に寄り添った結果なのか分からないが、その国はどんどんと時間が流れていくにつれて繁栄していった。どんどん金、モノ、人、色んな物があふれるようになってきた。


 すると、だんだん切り分け、与えられ続けてきた輝きが少なくなってきた。姫が1日に切り分けられる限界量を迎えていたのだ。


 これは一大事と、大臣達が集まって会議を行う。


「どうしますか?このままでは輝きが足りません!」


 議論は加熱していくが結果、答えを出せないまま煮詰まっていく。


「使える輝きを制限したほうが良いのでは?」とか「そもそも輝きは必要なのか?」とか。


 やがて煮詰まった会議室にある人物がやってきた。


 科学者である。


 彼は手に持っている物を大臣達に見せ、言い放った。


「〝輝きの姫〟はもういらない」


 手にしていたのは光り輝く懐中電灯だった。これを配れば姫が切り分ける必要も無くなる。これを沢山作って配ればいい、それだけで解決だ。


「素晴らしい」


 大臣達は早速その懐中電灯を量産する為に工場を建て、人を雇い、資源を輸入した。


 人々に光がいきわたり始めると、姫はもう朝焼け時刻に起きることは無くなり、自分の時間を楽しもうとし始めた。


 黄昏時刻、目を覚ました姫は街の散策を始めることにした。


初めて歩く夜の街、凄いわくわくした。


 今まで人に必要だとされながら生きてきた。今まで輝きが足りないと言われて切り分けてきた。


 姫は何よりも自分の幸せより、他人の幸せを願っていたから。


「私はもう必要とされてない、でもいいんだ、みんなに輝きがあるのだから」


 そう思った瞬間、裏路地から声が聞こえた。


 姫はその声の元に辿り着くと地面にシートを敷いて寝ている家族に出会った。思わず姫は聞いてしまった。


「・・・家はどうしたんですか?それよりなにより・・・輝きはどうされたんです?」


 中に居た母親が答えた。


「輝きは・・・お金が無くて買えないんです・・・」


 姫はその言葉を聞くと歯を食いしばり、駆け足でお城へと向かって行った。

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