第4話 Lv1からノーチートだった勇者候補のまったり合コンライフ~お昼休み編~

 ヤリマン高校と合コンが決まった、その日のお昼休み。


 アマゾンは優秀な戦士を選抜するべく、空き教室で1年A組の野郎共を招集し、合コンのリハーサルを行っていた。



「朝も言った通り、今回のヤリマン女子との合コンは4対4……つまり連れていける勇者は4人までだ。オレはもう確定しているから、残りの席は3つ。この3つを賭けて、お前らには争ってもらう」



 ゴクリッ! と、士狼たちの喉が鳴った。


 絶対に負けられない戦いが、ここにはあった。


(こりゃ厳しい戦いになりそうだ……)


 士狼は改めてアマゾンの独断と偏見により集められた仲間たち……いやライバルたちに視線をよこした。


 言うまでもないが言うまでもない男、猿野元気を筆頭に、田中、田坂、田辺、田島、田峰たみね錚々そうそうたるメンバーが大集結していた。


 中でも一躍いちやく目を引くのが、女性経験0のクセに何故か性病にかかり、処女懐胎かいたいがごとき奇跡を起こし、士狼たちから畏敬の念をこめて『マリアさま』と呼ばれている田峰だろうか。


 と、そこで士狼は気づいた。



「というか田峰、おまえ!? ちゃんと性病は治してきたのか!?」

「そ、それはっ!? そのぅ……えへっ♪」



 田峰が誤魔化すように『てへっ☆』と笑った。


 瞬間――ガシッ!


 元気と田坂が田峰の肩を掴んだ。



「話にならない。論外だ、田峰」



 チ●コ洗って出直してきな、この空間の神であるアマゾンの判断で、強制退出させられる田峰。


「あぁ~っ!?」と聞いていて悲しくなるような声と共に、ライバルが1人減った。



「気を取り直して、リハーサル再開だ! 合コンの第一声はクレーンゲームとまったく同じ、掴みが肝心だ! 女の子たちの心を鷲掴わしづかみに出来る自己紹介をして貰おうか! まずは田中から!」

「はいっ! 森実高校1年A組、田中隊員です! 趣味は声優さんのブログ巡りで、将来の夢は声優さんと結婚することです!」

「キモ過ぎる! 0点!」



 ざわっ!? と男たちの間に動揺が走った。


 な、なんて厳しい採点なんだ!?


 田中の自己紹介は、欠点という欠点が見当たらなかった素晴らしい出来だった。


 い、一体どんな自己紹介をすれば合格になるというのだ!?



「次、田坂!」

「は、はじ、はじ、はじめ……ぼ、ぼくっ!? た、たさ、たさ、たささささ――」

「噛みすぎ! 0点! 次!」

「オイラの名前は田辺だナベ。好きな食べ物はゴーヤチャンプルだなべ」

「面白くない! 50点!」



 中々の高得点をたたき出した田辺に、元気たちは焦った。


 マズい!? 田辺が頭1つ抜けたか!?


 不敵な笑みを浮かべる田辺。


 しかし、他人の足を引っ張ることに関してはプロフェッショナルな男、大神士狼がソレを見逃すワケがなかった。



「おいおい田辺ぇ~? 好きな食べ物は『熟女』の間違いじゃないのかぁ?」

「んなっ!? お、オオカミ、おまっ!?」

「知ってるか、アマゾン? コイツ田辺、兄貴の免許証使って風俗通いしてんだぜ?」

「なん、だと……?」



 流れが変わった。



「ど、どういう事だ大神?」

「どうもこうも、そのまんまの意味だよ。コイツ、プロのお姉さまと経験済みの素人童貞なんだよ」

「素人、童貞……?」



 アマゾンの瞳が人殺しのソレに変わった。


 元気は思った。


 上手い、流石は相棒だ――と。


 的確にプライドの高い童貞の逆鱗を突いてきやがる!


 基本的に童貞は非童貞を嫌い、ヤリチンを憎む、妖精のようなけがれのないピュアな存在なのだ。



「ち、違うんだべ、ミツハシ!? 素人童貞といっても、オイラの初めてはお姉さまじゃなくて、オバハンで――」

「不合格! マイナス500万点だ! 大神、はやくその汚らわしい存在を外に摘まみ出しなさい!」

「あらほらさっさ~♪」

「そんなぁぁぁ~~~っ!?}



 嘘だと言ってよバーニィー!? と、泣き叫びながら士狼によって廊下に投げ捨てられる田辺。


 これで残るは5人となった。


(それにしても、流石は相棒や。自己紹介では勝ち目がないと悟るや否や、盤外戦術でライバルたちを蹴落としにかかるとは……)


 元気は人知れずゴクリッ! と生唾を飲み込んだ。


 意地汚さが他のメンツより頭1つ抜けている、これが大神士狼か。


 全員の意識が士狼へと集まる。


 そのタイミングを待っていたかのように、士狼がアマゾンに向かって手を上げた。



「はいはいはーい! 質問でーす! 自己紹介は男の器が小さく・・・・見えるような事は言わない方がいいですかぁ~?」



 そう言ってアマゾンにのみ見えるように開かれた士狼の手には、マジックペンでこう書かれていた。




 ――粗チン、と。




 瞬間、アマゾンは理解した。


 コイツ、オレを脅す気だな!? と。



「そりゃそうやろ、相棒? ほかにも他人と自己紹介が被らん・・・・ように気をつけなアカンよなぁ?」



 そう言って士狼に追随する元気の手のひらにも、何かが書かれていた。


 アマゾンにしか見えない、絶妙な位置で開かれたその手のひらには『包茎ほうけい』と書かれていて、



(お、大神、猿野!? キサマら、オレを脅す気か!? オレに出来レースをしろというのか!?)

(そんな事は言ってねぇよ~? なぁ元気?)

(そうやで? ただ、ワイらを選ばんかったら、ついうっかりアマゾンの男の子の秘密をクラスメイトの女の子に話してしまうかもしれへんなぁ)

(この……っ!? 腐れ外道どもが!?)



 短小包茎を気にしていたアマゾンが、ギリッ!? と奥歯を噛みしめる。


 やがて覚悟を決めたのか、アマゾンはゆっくりと唇を動かした。



「つ、次、猿野。自己紹介を頼む」

「はいっ! 強気に本気、素敵に無敵、やる気に勇気、猿野元気です! 好きな食べ物はたらこスパ! 得意な事は機械イジリです!」

「エクセレント! お茶目な紹介で愛嬌たっぷり、文句ナシ100点! 合格です!」

「ちょっ、待てよ三橋!? アイツ猿野今、自分のキャラを忘れて標準語で喋ってたぞ!?」

「そうだよ! なにが強気に本気だ! どこの神風怪盗だよ!?」



 ブーブーッ!? と不満気な声を漏らす田坂と田中。


 アマゾンはそんな2人の戯言を綺麗に無視して「次!」と士狼の方を見た。



「はいっ! 森実高校1年A組、大神士狼です! 好きな食べ物は女子高生! 好きなセクシー女優は天使モカちゃん。得意な運動はピストン運動です!」

「……ん、ごうかく」

「「「はぁぁぁぁぁ~~っ!?」」」



 瞬間、烈火の如くブチギレた田中、田坂、田島がアマゾンに詰め寄った。



大神コイツが1番ありえねぇだろ!?」

「こんなのもう自己紹介じゃないよ! 単なる犯行予告だよ!?」

「目を覚ませアマゾン!? あんな奴を連れて行ったらせっかくのヤリマン女子との合コンが失敗に終わるぞ!?」

「シャラァァァァァップ、カス共! オレが合格と言ったら合格なんだよ!」



 横暴だ! 職権乱用だ! だからモテないんだよ! と叫ぶ3人に負けないように、アマゾンは声を張り上げた。



「うるせぇぇぇぇっ! ともかくコレで3人決まった! あと1人はジャンケンで決めろ!」

「えぇぇええっ!? なんじゃそりゃぁぁぁぁっ!?」

「今までのやり取りは何だったんだよ!?」

「というか、僕まだ自己紹介してないけど!?」



 騒ぐバカ共を尻目に、士狼と元気はお互いの健闘をたたえ合った。



「やるな元気? 流石は俺の終生のライバルだ」

「ふふっ、そういう相棒こそ。悪魔に魂を売ったとしか思えない鬼畜の所業っぷり……最高やったで?」



 2人はお互いの友情を再確認するように、固い握手を交わし合った。


 そのとき2人が握り合ったモノは、お互いの手ではなく、間違いなく『青春』そのものであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――魅力的な女の子は書けませんが、汚い男の子なら僕、書けるんですよね……

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