第10話『地属性最強種! 埼玉!』(6/8)
この世界では弱者は保護されない。強者のもとで喰われるだけだ。それに抗おうとするなら、力を手に入れなければならない。力の大きさにより、生き長らえることができる。生きていれば何かが変わるし、変えることも可能だ。その機会を失わないためには、まずは生き抜く必要がある。力こそが全てなのだ。
「今どの程度まで置き換えとかが済んでいるんだ?」と零士が問う。
「概ね3%程度です」とウルは答える。
「……少なっ!」と零士は声を荒げ、労力に見合わない進行度に目眩を感じた。
「そうですね……」ウルは苦笑いするしかない。彼女の声は零士の脳内でのみ響き、外部には聞こえない。
「そんなに大変なのか?」と零士が確認する。
「はい、生きている状態での切り替えですので、非常に繊細な作業が求められます」とウルが応じる。その声には、この難しい任務への緊張感が込められていた。
「なるほど、素人目にも大変さがわかるな」と零士は淡々とした口調で応じた。
「はい、非常に繊細な作業ですから、相応のエネルギーが必要になります」とウルは追加する。
「念のために聞きたいのは、有機体なのかそれでも?」と零士はウルに問いかける。零士の目には、この技術が未知の領域であることが映っていた。
「はい、有機体として生きている状態を維持する技術です。ナノマシンと亜空間技術を応用しています」とウルは解説した。
「俺が俺であり続けてかつ、生身であるなら何も問題ないさ」と零士は冷静に語った。彼の言葉には、この選択がもたらす可能性への信頼が込められていた。
「ご安心ください。不老に近い存在へと変わることでしょう」とウルは保証する。
零士はふと思い、ウルに問いかける。「侵食率と現在の置き換え3%の違いは何だ?」
「簡単に言いますと、『予約』と『実行』です。侵食率が『予約』で、置き換えをが『実行』を指します。そして、この予約は解除できないのです」とウルは説明し、零士にこれからの展開を示唆した。
零士はこの世界で生き抜くことの重要性を痛感していた。力がなければ、未来は厳しい。そのためには、どんな困難も乗り越える強さが必要だ。
零士はウルとの会話を通じて多くを考えた。彼とウルの会話は現実の数瞬でしかないが、その短い間にも重要な洞察が交わされた。
「レイジ? 思ったほど稼げなかった?」とリーナが心配そうに尋ねる。彼女の眼差しは零士の目を捉え、何かを探るようだった。
「あっ、ごめん。ちょっと考え事をしていたんだ」と零士はリーナに答え、少し遅れてから続けた。「ええと、これからどう強くなるかを考えていたんだ」。
リーナは興味深く零士を見つめ、「へえ、そんなことを考えていたの? どんな話?」と問い返す。
零士は内心でウルの存在に感謝しつつ、リーナに向けて微笑んだ。「これからどうやって強くなるかだな」。
リーナが疑問を投げかけた。「答えは見つかったの?」彼女の眉が心配そうに寄せられる。
零士は、頭の中でウルが黙々と情報を分析する様子を感じながら答えた。「地道な方法しかないんだ。狩りをして、捕食していくしかないんだよ」彼の声は少し低く、考え込むような響きがあった。
リーナはクスッと笑い、首を傾げた。「何それ? レイジのくせに変なの」彼女の言葉は冗談めかしていたが、その眼差しには真剣な光が宿っていた。
零士は、リーナの反応に少し動揺しながら「そうか?」と返した。彼の声には不安がかすかに震えていた。
「うん、すごく変よ」とリーナが強調する。彼女の指が、不意に零士の手を軽く触れた。その接触が、彼女の言葉に重みを加えているようだった。
「う〜ん、どうしてだろう」と零士は思案顔で呟いた。その間も、ウルは彼の心の中で静かに彼を支え続けていた。
「それより、見て! こんなに稼げたの!」リーナの声が明るく弾んだ。彼女は零士に、手にした金貨袋を見せつける。
「おお、すごいな。これもリーナのおかげだな」と零士は心から感謝の意を表した。彼の顔には、少しの笑みが戻っていた。
「おっほん、そうでしょう、そうでしょう」とリーナは得意げに胸を張った。
「俺だったら、これの半分以下しか……」と零士は、少しだけ肩を落としながら言った。その声には、わずかながら自嘲の色が含まれていた。
「みんな、レイの凄さが分からないのが、もどかしいわ」リーナの声には少しの不満が混じっていた。彼女の眼差しは、零士への深い信頼と尊敬を映していた。
「別に気にしないさ。俺にとってランクはどうでもいいしな」と零士は静かに返答した。その言葉は彼の本心からのものだった。
「と言いつつも、あたしのランクの恩恵を受けているじゃない?」リーナはニヤリと笑いながら挑発する。
「まあ……それもそうだな」と零士は素直に認め、リーナの存在が自分の運命をどれだけ楽にしてくれているかを認識していた。
会話が一段落したところで、リーナは周囲の異様な雰囲気を感じ取り、警戒し始めた。「レイジ、なんか周りの様子がおかしくない?」彼女の声には、普段とは違う警戒の色が濃く出ていた。
「ああ、なんかさっきから出たとかでないとか言ってるな」と零士は答えた。彼の声には、リーナが感じた緊張が感じられなかった。
「私たちの所では遭遇しなかったね」とリーナが付け加えた。零士は、ウルと共にその事実を黙々と受け止めていた。
「多分、ナル姉がうまく誘導してくれたんだろうな。慣れているし」と零士は感謝の意を込めて言った。ナルの経験と機転が、彼らをこれまで数多くの困難から救ってきた。
零士たちは一旦宿に戻り、休息を取った後、早朝のダンジョンに向かった。
不思議な静けさの中を進んでいった。周囲には誰もいない静寂が広がり、不安と期待が交錯する中、リーナの手が再び零士の服の裾を掴んだ。
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