自称魔女と魔導書
@twweqte2
第1話旅立ちの日
「えーっと。保存食、師匠からもらった銀貨、この周辺の地形が記憶された地図。師匠の日記。そして、箒。」
ガサゴソと音を立てながら少女、まだ太陽も昇っていないなかで、旅立ちの準備をしていた。
両親はまだ寝ており、いつも少女を起こしているニワトリもまだスヤスヤと寝ている。
部屋も当然真っ黒であり、目が慣れるまで自分の姿でさえ見えなかった。
目が慣れてくれば、自分の部屋も見えるようになる。
まぁほとんど物なんてないから、見えてなくても見えても同じなんだけどね。
この部屋は、ほとんど何もなくあるのは、なんだか分からない草が敷いてある木製のベットだけ。
天井は低く、起き上がったら頭をぶつけてしまう。
本当に牢獄のような部屋だ。
いや、もしかしたら牢獄の方が、広くてもっとましな環境かもしれない。
唯一の外の交流手段は、この子供がぎりぎり通れる換気用の小窓だけ。
この小窓が、無ければこの部屋はもっと悪臭で満たされていた事だろう。
まぁ今でも充分に臭いだが。
週に一度掃除と体を綺麗にしているが、流石に臭いはキツくなってしまう。
もう少し風通しが良ければもっとマシになったろうが、これは仕方がない事だ。
この部屋は、元々二階なんて無かったこの家に無理やり造った為、ほとんど何も考えられていない。
普通は、子供のために造ったのだろうと考えるだろ。
でも、この部屋は私を閉じ込める為に造られたものだ、
私が、魔女なんて目指さないように諦めてくれるように。
「この村を出て、魔女になるなんて許さん!」
「あなた5年前だって、空飛ぶんだって言って時計台から落ちたじゃない。そんな危険な事お願いだから諦めて」
両親は、顔を引き攣らせて必死に止めたり、諦めるように諭してきた。
それでも魔女になりたいって言ったら、こうして屋根裏に閉じ込められてしまった。
この部屋は、床にドアがあり、そこから梯子で降りることが出来る。
両親の許可が降りた時だけはしごが掛けられる。
だから、梯子が降りてない今は降りる事が出来ず、両親もデカいいびきをかきながら寝る事が出来るのだ。
この部屋がちゃんと設計されていれば、それで良かっただろう。
「マヤまだおわらないのか?さっさと出ていこうぜ」
荷物を布袋に詰めているのに痺れを切らしたのか、床から声が聞こえてくる。
床には、これで人を殴ったら怪我をしそうな分厚い本が一冊。
埃だらけの部屋の中にあるのにこの本は、汚れ一つない。
そんなピカピカの本は、マヤを表紙についたギョロギョロした目玉で見ている。
「オリーは、本当に気が短いな。じゃあ最後に師匠の服を出して」
マヤがそう言うとオリーは、床に黒いローブ吐き出すように床に出した。
御伽話の魔女が着ているような黒く全身を覆ってしまう黒いローブ。
これは、師匠が着ていた物だ。
師匠が着るとちょっと怪しげなお姉さんって感じで、正直すごく似合っていた。
わたし?
まぁ遠目で見れば違和感なくなる程度かな。
いや、背は低いし、師匠みたいに髪も長くないけど、これはこれからの成長込みでこの服を着るんだ。
「毎回思うんだけど、魔導書っぽく取り出せないの?」
「じゃあお前も魔女を名乗るなら、箒で飛ぶ以外の魔法を覚えろ」
それを言われてしまうと、何も言い返せず、ぐぬぬと黙るしかない。
でも、むかつくから床に叩きつけてやろうか。
このオリーは、見ての通り普通の本ではなく魔導書と呼ばれているらしい。
師匠。
私に魔法の基礎を教えてくれた人であり、私がこの村を出る理由の一つでもある。
師匠は、最後に私に会った時様々な物をくれた。
布袋に詰めている物が、ほとんど師匠の物だ。
「もし将来この村を出る時に使いなさい。じゃあバイバイ」
これが、師匠の最後の言葉だった。
あの時師匠の顔は、あまりにも楽しそうに笑っていて、また明日も会えると思っていた。
バイバイって言うのが、本当のさよならだった事にはしばらくたってから気づいた。
私は、村の中を必死に探した。
でも、見つからなくて途方に暮れて家に戻ると
「いつまで探してるんだよ。アイツはもういないよ」
といきなり本が喋り出して驚いた記憶がある。
そこから自分は、魔導書でオリーと呼ばれている。
あいつからお前に魔法を教えてやるように頼まれている。
そんな感じで、魔法を特訓していたら親に見つかりこうして屋根裏部屋にぶち込まれた訳。
まぁ屋根裏部屋にいた時もオリーをベットの下に隠していたんだけどね。
「よし!布袋にすぐ使う可能性がある物は詰めたし、師匠の服も取り出したから出発」
「せっかく出したのに今着ないのかよ」
「当たり前じゃない。こんな汚れている身体で師匠の一張羅を着れるわけないでしょ」
「そんな上等な物じゃねぇだろ」
「うるさいうるさい」
口の悪い魔導書の言葉を無視して、布袋につ込んでやった。
師匠のローブは、村を出てすぐにある川で身体を洗ってからにしてから着よう。
それまでは、この薄汚れた足元まで隠れた服を着る事になる、
母のおさがりをそのまま着ており、当然サイズは合っておらず、全身を隠してしまっている。
そんな私がどこから外に出るのか。
それは、この小窓からだ。
この部屋は、緊急で造られた物だから色々杜撰な所がある。
この小窓は、ちゃんと空気が入るように取り付けられたものだが、小柄な私はそこから普通に脱出出来てしまう。
だが、一回ここを使いそれを誰かに見られてしまったら、この窓は2度と使えなくなってしまう。
だから、今日まで我慢して閉じ込められてきた。
「それも今日で終わり!」
マヤは、両親が起きない大きさの声で、木製
の窓をゆっくりと開けていく。
無理やり取り付けられた窓は、ギリリリと悲鳴を上げるような音を立てて開いていく。
窓を開けると夜風が、マヤに当たる。
その風は生暖かく、もう直ぐ夏がやって来る事が分かる風だった。
窓の外は、闇が広がっており、見える物は夜空の星だけだった。
誰もいない事を確認して、マヤは声を出した。
「大魔女マヤの旅が今ここに始まる!」
「空を飛ぶ事しか出来ないやつが、大魔女とかよく言えるな。やっぱりもっと修行するべきだと思うぜ」
「師匠は、18歳の時に旅に出たって言っていたでしょ。だから、弟子の私も18歳になったから旅にでる!これは、私に弟子が出来たらそうさせるからね」
「はいはい」
そう言ってオリーは、話さなくなった。
「じゃあ気を取り直して出発!」
マヤは、手に持っていた箒を窓から外に出した。
箒は、落ちることはなく空中に浮いている。
浮いている箒は、私が乗っても落ちる事はなく、私を乗せて空を飛ぶ事が出来る。
これがオリーが言っていた私の唯一出来る魔法だ。
それ以外の魔法は、オリーの協力がないと使用する事が出来ない。
「でも、空を飛べれば誰だって魔女だよ」
そう言って、浮いている箒に窓から飛び乗った。
飛び乗られた箒は、一瞬下に落ちたように見えたがすぐに持ち直し、マヤを上に上げていく。
こうして大魔女を目指す少女の物語が始まるのでした。
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