第129話 神の愛し子
「あれ、サンタだったんだね。ぼく……俺、あの後暫く靴下を枕元に置いて寝るようになったんだ」
サンタとの過去を思い出し、懐かしんでいると、ジェラルドに呆れた顔で見られた。
「だからか。俺の枕元にも靴下置いてただろ」
「だってお爺……サンタがクリスマスに置いて寝るようにって」
ただ、我が国にはクリスマスの概念が無い。故にクリスマスがいつか分からない。とりあえず毎日置いて寝たのだ。しかし、何も起こらなかったので一年も経たない内に置くのをやめた。
「あー、でもノエルは俺が言わなくても毎年靴下置いてたよ。それも決まって十二月の……」
「どうかしたか?」
「今日だなって」
「そうじゃ、今宵がクリスマスじゃ」
サンタは憂いを帯びた表情で、動けないトナカイを撫でながら続けた。
「本来ならこんなプレゼントじゃなく、オモチャやら絵本なんじゃがな」
「……」
「わしはただ子供達に喜んでもらいたくて、子供達の人数を把握しておっただけなのにのぉ。不審者扱いじゃ」
「グゥー、グゥー」
トナカイがサンタを慰めるように鳴いた。
「そんなこと言ったって、敷地内に見ず知らずの爺さんがいたら不審者だと思うだろ。なぁ、オリヴァー」
「いや、俺は何とも……」
四歳だったとはいえ、何の警戒心も抱いていなかった。むしろプレゼントをくれる良い人だと思っていた。
「てか、人数把握してるだけならオリヴァーに声かけんなよ」
「子供が泣いておるのに放置など出来んじゃろう。わしはサンタじゃぞ。子供を笑顔にするのが仕事じゃ」
勝手に屋敷に入ったサンタも悪いと言えば悪い。しかし、サンタの仕事を聞くと致し方ない気もする。
「あれ? でもさ、サンタは結局トナカイに乗って逃げてなかった?」
「そうだ、逃げてた逃げてた。逃げたんだから問題ないだろ」
「逃げはしたが、天界では『サンタが誘拐事件を起こした』と誤報が飛び交ってしもうてな……あれのせいで神から見放されてしもうたわい」
「ちょっと待って、天界? それに神様って実在するの?」
「何じゃ? 魔王がおるのに神はおったらいけんのか?」
「いや、そういう訳じゃ……」
人々の心の安寧の為に、人間が勝手に作り出した崇拝の対象かと思っていた。
「そういう訳でな、居場所を失ったわしは魔界へ行くはめになってしもうたんじゃ。だから、貴様らは絶対に許さん!」
サンタが手をパンパンと叩くと辺り一面に雪だるまの小さな兵士が現れた。ザッと五十体くらいはいる。
静かにサンタと俺達の話を聞いていたエドワードとキースが臨戦態勢をとった。
「オリヴァーとジェラルドは休んでて良いよ」
「オレらまだ何もしてねーから、ここは任せとけ!」
格好良く言う二人に任せたい所だが、五十体もの雪だるま相手に二人は少々厳しいと思う。
「ちょっと待って、俺も……」
俺は聖剣を引き抜いて、飛びかかってくる雪だるまの攻撃を防ごうとした。
「あれ?」
雪だるまがピタリと制止していた。それを見たキースとエドワードも剣を振りおろそうとして躊躇したようだ。剣が宙を泳いでいる。
「どうなってんだ?」
「止まってるよ」
サンタが雪の上に膝をついた。
「何故じゃ! 何故今宵も支配権が貴様に変わるのじゃ!」
俺は状況が飲み込めず、いつもながらジェラルドに聞いてみた。
「えっと……どういうことかな?」
「お前が支配権握ったらしいぞ。なんか命令してみろよ」
「何かって……雪だるまさん、ジャンプしてみて」
すると、ピョコンと一斉にジャンプした。
「えっと、そこに整列」
俺が光魔法で雪の上に一本の道を作った。雪だるまは光の絨毯の上に一列に整列した。
「貴様、その力はまさか……しかし、さっきまでは違う力を使っておったはずじゃ」
「ああ、戦闘は出来るだけ闇魔法を使うようにしてるから。光魔法は治癒で使うことが多いから、念のため温存させてるんだ。敵にもよるんだけどね」
「フォッ、フォッ、フォッ、これは参ったわい。わしは初めから勝ち目のない勝負に挑んでおったのか」
サンタが赤い帽子を脱ぎ、その場に座った。白い髭と帽子から見えていた髪はフサフサで暖かそうだったのに対し、頂点はとても寒そうだ。
「わしの力は元々神から与えられたものじゃ。神に支配権が移るのは当然よのぉ。何故わしは九年前に気付かなかったんじゃ」
「オリヴァー、お前とうとう神になったみたいだぞ」
「ジェラルド、冗談はやめてよ」
しかし、サンタの発言の意味が分からない。
「神の愛し子よ、すまんかったな」
「愛し子?」
俺は辺りをキョロキョロと見渡した。
「貴様の事じゃ」
「は……俺が!?」
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