第130話 サンタの更生
サンタ曰く、俺は『神の愛し子』らしい。
「ところで、神の愛し子って何?」
初めて聞く言葉に首を傾げていると、サンタが呆れたように応えてくれた。
「ッたく、知らんのか。言葉のまんまじゃ。神に愛されているということじゃ。神に愛された者は神と同様の力……光の力を授かっておる」
「へぇ。これ神様の力なんだ」
「お前の聖人と女神様の伝説も間違いじゃなくなるな」
「確かに……って、ジェラルド。女神様は間違いだよ。俺、男だもん」
サンタが可哀想な子を見る目で見てきた。
「俺、男だよね?」
不安になって阿呆な質問をしてしまった。
「ごめん、気にしないで……」
「自分の顔を鏡で見たことはあるかの?」
「あるよ」
「女の子みたいじゃと思ったことはないか?」
「あー、うん。あるよ」
最近は特に皆から言われるので、ひとまず坊主とか完全に男に見えるように髪型から変えてみようかと思っていたところだ。
「人間は神が作るんじゃがな、昔、神と女神が話しておるのを聞いたことがあるんじゃ」
「どんな?」
◇
『そろそろ次の愛し子を人間界に送らないとね』
『そうだな』
『性別は女の子で良いかな? 女の子にするね』
『あ、待て。前回も女だったぞ。アイリスって可愛い女の子にしたはずだ。男にしよう』
『え……もう女の子にしちゃったよ。顔だけだけど』
『なら大丈夫だ。体を男にすれば良い。成長して、もし気に入らないと言われれば、体も女にしてやろう』
『そうだね。顔はもう変えられないけど、体ならどうにかなるもんね』
◇
「何、その会話……」
俺ってそんな風にして作られたの? 愛し子と言われる割には雑な気が。
そして、ジェラルドがとても嬉しそうに俺の手を取った。
「よし、今すぐ神の所に行こう! おい、爺さん、どうやって行くんだ?」
「ジェラルド、俺は行かないよ」
「分かった。一人で行ってくる」
「待って待って、ジェラルドも行かないで。俺は男が良い! 女の子なんて嫌だ!」
女装をした時の方がモテる。チヤホヤされて良い思いをするかもしれない。しかし、しかしだ……俺は既に男として育てられた為、精神は男なのだ。今更、女になるなんて無理だ。
必死にジェラルドに縋りついていると、サンタが溜め息を吐いた。
「安心するが良い。わしはもう立ち入りを禁じられておるから、貴様が行く気にならんことには入れん」
「やっぱ誘拐事件のせい?」
「そうじゃ」
「なんか、ごめん……」
「今回の侵略も失敗したしのぉ。魔界にも居場所がなくなってしもうたわい。いっそ一思いに殺してくれ」
「殺せって言われたら殺しにくいよな」
「見た目、普通のお爺さんだしね」
何とも言えない空気が流れていると、アーサーから交信が来た。
『ノエルが、サンタを更生させようって言ってるぞ』
◇
一時間後。
「何で俺だけ……」
俺は今、王城の中の一室にあるベッドの上にいる。真夜中なのでそれは至極当たり前のこと。ただ、仲間……だけでなく、ハイアット王国の民も全員、真夜中にも関わらず宴を開いて楽しんでいる。
実は、これはサンタ更生の一つが成功した証。
——サンタ更生の為には三つしなければならないことがある。
一つ、天界でのサンタの誤解を解くこと。
二つ、人間界での悪行の謝罪。この襲撃が初めての悪行だったようで、この国だけの謝罪。
三つ、襲撃を失敗したサンタが魔王から罰せられないように匿うこと。これは天界での誤解さえ解ければ神が守ってくれるはず。多分。
そんなこんなで、まずは二つ目のハイアット国王に今回の襲撃の謝罪をしに行ったサンタ。許しを請うたところで、死刑は免れないだろう。そう思ってサンタの逃走経路も確保していたのだが、すんなりと許しを得たのだ。
何故ならこの国でサンタは元々愛されキャラ。以前からクリスマスになるとサンタが来ていたのだ。そして、ある時を境にパタリと来なくなり、国民全員でサンタの安否を祈ったのだとか。
今回のことも『魔王に操られていた』と勘違いしてくれた。しかも、今回の襲撃がきっかけで、鑑賞用の花火を作ると民は奮い立っているようだ。
なので、今開かれている宴はハイアット王国の無事とサンタの帰還、新しい事業展開を祝っての宴だ。
そんな中、俺だけ仲間外れにされているのは……王家の者は、クレアを治癒したことが原因で俺の余命が一年だと思い込んでいる。いくら訂正しても誤解が解けない。故に無理矢理ベッドに寝かされた。
「まぁ、眠いから良いけどさ……」
そして、明日は早速天界にサンタの誤解を解きに行くことになっている。
「天界かぁ、いきなり女にされたりして」
俺が女になって喜ぶのは……妹が欲しいジェラルドと、その父。メレディスも本当は女の子の方が好きだろう。エドワードはどっちでも良さそうだが、キースは意外と女装姿の俺を可愛がってくれる。
一番の問題はノエルとリアムだ。ノエルの言った事は大抵現実になっている。そして、リアムは策士だ。この二人が俺を女にしたがるようなら確実にそっちの方向で話が進む。
サンタの誤解だけ解いてパッと帰ろう。次の襲撃にも備えなければならないし、時間が無いと言って早急に立ち去れば良い。そう思って瞼を閉じた——。
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