第117話 魔力封じの首輪

 チェスターは非常に稀少な時魔法の使い手だった。


「操れるって言っても短いんだけどね。残り十秒もしたら元に戻るから、早くしないと動いちゃうよ」


 それを聞いて、俺は急いで時が止まったキースに光魔法をかけた。


「わ、動いた」


「オリヴァー、それにジェラルド。あれ? エドワードはどこだ?」


「良かった。元に戻った」


「まさか、オレ……」


 キースはヴァンパイア化していたことに勘付いたようだ。表情が険しくなった。


「すまん!」


「おい、キース。今はそれどころじゃない。敵がヴァンパイアだけじゃなくなった」


 ジェラルドが言えば、キースがアーネット親子を見た。


 二人には護衛騎士も数名ついており、一見すると領地の異常事態に駆けつけた領主そのもの。キースを助けたのも、ここにいる街の人々にそう思わせる為だろう。ただ、俺達は知っている。この二人の腹の内を。


「オリヴァー、急いで結界内に戻れ」


「うん。一旦三人で」


 この際三人で結界内に戻り、仕切り直しをしよう。


「あれ?」


「どうした、オリヴァー。早くしろ」


「うん、行きたいんだけど転移出来ないんだ」


 魔力切れにしては早すぎる。俺の魔力はこんな短時間では切れない。というより闇魔法はほぼ使っていない。そこで俺はアーサーの言葉を思い出した。


『チェスターの奴、魔力封じの首輪持ってんだよ』


 俺は自身の首元に手をやった。


「何コレ……外れない」


 奴隷の首輪のような、一見すると可愛らしいネックレス。それが俺の首についていた。


「いつの間に……」


「俺もだ」


 同様にジェラルドの首にもついていた。


 チェスターを見ると、心配そうな顔で俺に言った。


「まさかそれ……魔力封じの? どうして君達の首に?」


「チッ、白々しいな」


 時を操ってチェスターがつけたに違いない。


 ヴァンパイアを倒す上でも魔法はあった方が良い。何より、ヴァンパイア化した人を元に戻すには今のところ光魔法しか分からない。


「この街の人達を守りたくないの?」


「守りたいよ。だからこうやって様子を見にきたんだ。ね、父上」


「ああ、騎士も送り込んだから安心すると良い」


「騎士を?」


 ジェラルドとキースも冷や汗を流しながら言った。


「まずいな」


「死人が出なけりゃ良いが」


 心配した矢先、悲鳴が聞こえてきた。


「キャー!」


「何で騎士様が?」


「俺達悪いことなんて何も……お助け下さい」


 騎士がヴァンパイア化してしまったようだ。俺はチェスターに詰め寄った。


「早くこれ外して!」


「外してって言われても……つけるのは誰でも出来るけど、外すのは魔力量の多い人だけらしいよ。ボクはそれ程の魔力はないから」


「嘘……」


 だからジェラルドにも魔力封じの首輪をつけたのか。


「この街の奴らが死んじまっても良いのか? これつけたのお前だろ!?」


 ジェラルドがチェスターの胸ぐらを掴めば、アーネットが嘲笑うように言った。


「国際問題にしたいのかい? 仮にもチェスターはこの国の公爵家次期当主だ」


「チッ」


 ジェラルドは投げ捨てるようにチェスターから手を離した。


「とりあえずエドワードの所に行ってみようぜ」


「うん」


 エドワードは俺達程の魔力量はない。しかし、ノエルの魔力量では絶対に無理だろうし、今はエドワードが頼みの綱だ。


「チェスター、私達も付いて行こう」


「ですね。魔法が使えない魔法使いなんてただの人ですからね」



 


 エドワードはヴァンパイアに囲まれていた。


「ヴァンパイアって一体じゃなかったんだ」


 ヴァンパイアは六体もいた。しかも、エドワードは随分と負傷している。引っ掻き傷のような傷が全身に無数に刻まれ、かなり出血している。


「エドワード! 聖水は?」


「通りがかりに負傷者に渡しちゃった」


 アーネットとチェスターも想定外だったようだ。先程までの余裕がなくなった。


「まさかこんなのがいたとは……」


「父上、普通に領地の危機かもしれませんね」


「騎士らもこいつらに操られたというわけか」


「先にこっちを片付けてから彼をゆっくり奪いましょう。騎士らによって負傷者も続出しているという情報もありますし、これくらい騒ぎになれば大丈夫でしょう」


 一応、チェスター達も戦闘に加わるような口振りだ。


「ジェラルドはこれ持って待ってて」


「これに頼るしかないなんて情けねーな」


 ジェラルドはニンニクを持って少し離れた場所で待機した。


 俺とキースは同時に走り出し、それぞれヴァンパイアに斬りかかった。が、上空へ逃げられ、刃は当たらなかった。


 ただ、キースの炎はしっかりと敵を捉えていた。ヴァンパイアは火だるまになった。


「さすがキース!」


 ヴァンパイアは大きくダメージを受けているようだ。呻き声を上げながら土の上をゴロゴロとのたうち回った。


 しかし、火が消えると黒焦げではあるが立ち上がり、キースに向かって爪を立てた。


「うわぁ!」


 胸から腹部にかけて切り裂かれ、大量の血が吹き出した。


「キース大丈夫!? 早く治癒を……って出来ないんだった。とりあえず聖水飲んで」


「悪ぃな」


 二口飲めば、キースの傷は綺麗に治った。


「強いかはさて置き、聖水の噂は本当だったんだね。これは随分と使えそうだ」


 チェスターが怪しい笑みを浮かべていた——。

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