第118話 戦闘は? 恋に落とすって何?

「クソッ、全然当たらない」


 聖剣をいくら振りまわしても、上空へ逃げるヴァンパイアには刃すら入らない。


 しかも、ヴァンパイアは再生能力が高い。キースがヴァンパイアを何度も火だるまにしているにも関わらず、あっと言う間に再生してしまう。


 ちなみに、エドワードには聖水を飲ませて傷口は塞がっている。そして、魔力封じの首輪はエドワードでは外れなかった。


「時よ汝の時間を止めよ時間停止タイムストップ


 チェスターが詠唱すると、上空でヴァンパイアが停止した。


「やっと命中した! オリヴァー君、早く!」


「早くって言われても、あんな空高いところで止められたら攻撃出来ないんだけど」


 魔力封じの首輪のせいか、みーちゃんを呼んでも出てきてくれないし、戦いようがない。


 チェスターは時を操ることが出来てもただそれだけ。後方支援には最適かもしれないが、攻撃は出来ず戦闘には不向きな魔法だった。


「水よ、敵の心臓をも貫け水弾ウォーターバレット


 エドワードが詠唱すれば、水の弾丸はヴァンパイアの心臓辺りを貫いた。


「エドワードさすが! これで一体倒せ……あれ?」


 止まっていた時が動きだし、下に落下するかと思いきやヴァンパイアは上空をパタパタと飛んだままだ。


 不思議に思っていると、アーサーの声が聞こえてきた。


『オリヴァー、今思い出したんだけど、ヴァンパイアは元々死人だ。不死身に近い』


「え、じゃあどうやって倒すの?」


『お前の光魔法か……太陽の光で焼かれるはずだ』


「太陽って……」


 まだ深夜二時くらいだろうか。日が昇るまでまだまだ時間がかかる。


「チェスター、ヴァンパイアを五時間くらい先の未来に連れて行くこと出来ないの?」


「出来ないことはないけど、一体がせいぜい限界かな」


「一体でも良いから太陽が昇る時間まで連れてって。そしたら消滅するらしい」


 説明すると、アーネットが手に風を纏って応えた。


「明日の朝は雨のようだ。日が出るのは明後日だ」


「さすがに明後日までは無理かなぁ」


「我らもここで終わりかもしれんな」


 呑気に話すアーネット親子に苛立ちを覚える。


「もう、なんで魔力封じの首輪なんてつけたの!」


「だって、君が欲しかったから」


「やっぱコレつけたのチェスターじゃん!」


 ずっとシラを切っていたチェスターに、魔力封じの首輪をつけたことを白状させることに成功した。成功したところでどうこうなる訳ではないが。


『おい、ノエルが前世でやってたゲームでは、ヴァンパイアを恋に落として自分の味方につけるってのがあったらしいぞ』


「アーサー、ちゃんと考えて報告してきてよ。ヴァンパイアと恋なんて無理に決まってるじゃん」


『お前ならいけるんじゃないか? 試しにやってみろよ』


「試しにって……あれ、男だよ。多分」


『お前、男落とすの得意じゃねーか』


「得意じゃないよ」


 しかし、ノエルが言うのならもしかして……そう思ってしまう自分が怖い。


「あのー、ヴァンパイア……さん?」


「なんだ?」


「うわ、喋った」


 今まで無言だったので喋らないものだとばかり思っていた。


 驚いた拍子に聖剣を落としたら、キースに心配された。


「オリヴァー、何やってんだ?」


「あ、いや。ノエルが変なこと言うから」


「ノエルが?」


「ヴァンパイアを恋に落として味方につけろとか何とかって」


「恋?」


 キースは俺とヴァンパイアを交互に見た。


「はは、出来る訳ないよね。よし、太陽の光が出てくるまで頑張ろう。他にも方法があるかもしれないし」


 聖剣を収めて次は体術で立ち向かってみようと構えを取った。


「案外いけるんじゃないか?」


「体術で?」


「いや、ヴァンパイアを恋に落とすの」


「僕もノエルが言うならいけると思うよ」


「エドワードまで何言ってんの……」


 エドワードはヴァンパイアに向かって質問した。


「ヴァンパイアは男が好き? それとも女の子?」


「敵にそんなこと聞いたって応えないって。しかも、戦闘中に……」


「女だ」


「おれもだ」


「私はどっちでもいけるぞ」


 ヴァンパイアが口々に応え始めた。


「髪は長いのが良い? それとも短いの?」


「長いのが良いな」


「血が美味かったら何でも良い」


「血が美味くても顔が不細工なら萎えるだろ」


 ヴァンパイアの恋愛事情などどうでも良いが、何故か好きなタイプを容姿から性格まで細かく聞いて行くエドワード。そして、律儀に応えるヴァンパイア。不思議な光景だ。



 ◇



 数十分後。


「で、何で俺はこんな格好させられてんの?」


 ジェラルドが近くの店からフリルがふんだんに使われた真っ赤なドレスと靴を調達してきた。それを嫌々着せられ、極め付けにジェラルドがつけていた金髪の長髪のカツラを被った。


 久々の女装姿に恥ずかしさを覚えていると、エドワードが言った。


「ヴァンパイア六体の好みを組み合わせたらこうなったんだよ」


「だからって……」


 恋に落としてこの場の状況を治めるなど無茶苦茶過ぎる。


 しかも、ジェラルドがカツラを取った為、アーネットが俺とジェラルドの正体に気付いてしまった。


「お前は……それに貴様。アーシャを何処へやった!?」


「知らねーよ。勝手に逃げたんだろ」


「貴様、許さん!」


「知らねーって言ってんだろ。今大事なとこなんだから黙って見てろよ」


 ジェラルドがキッとアーネットを睨みつければ、アーネットは黙った。


「ほら、とりあえず明後日の太陽が昇るまでで良いから相手してこい。上手くいけばヴァンパイア化した奴らを俺らで縛り上げとくからよ」


 ジェラルドに背中を押され、まるで生贄のようにヴァンパイアの前に立たされた。


 ——戦闘は? 俺、その為に冒険頑張って、経験値積んだんだよ。恋に落とすって何?

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