第46話 野盗の襲撃
翌朝。
「何でこの猫がいるんだよ」
ジェラルドが不機嫌に言えば、エドワードは心配するように言った。
「だけど、このまま連れて行くわけにも行かないし、お兄さん探さないとね」
「んん……ボク、ずっとここが良いかも」
ショーンはリアムの膝の上で、顎やら耳の裏やら体中をわしゃわしゃ掻くように撫でられるのが気持ち良いようだ。脱力しながら本物の猫のように喉を鳴らしている。
「ショーンだけなら大歓迎だけどね」
「リアム、猫好きだもんね」
リアムは王城にいた頃、俺と仲良くなる前の友人は猫だけだったらしい。それもあって猫の扱いも上手い。
喉を鳴らしながら、ショーンがチラリとこちらを見た。仲間にする話をしろということらしい。
「そういえば、キースは野盗やめたんだって。ショーンもここを気に入ってるみたいだし、キースを仲間には……」
「しないよ」
「するわけないだろ」
リアムとジェラルドは即答し、ついでに睨まれた。怖すぎる。俺にこの二人を説得するのは無理だ。
ドンドンドン!
力強く扉をノックする音が聞こえた。
「ノエルかな?」
「ノエルだったら、この猫返して来いって言っとけ」
「はは……ノエルが連れてきた訳じゃ……ギル?」
扉の向こうにはギルがいた。走ってきたのだろう。息を切らしながら汗までかいている。
「どうしたの?」
俺がギルを部屋に招き入れると、エドワードが水を出してくれた。それをギルは一気飲みしてから言った。
「野盗が……野盗が村で暴れてるんだ」
「え?」
「親父や戦える者が総出で立ち向かってるが、次々にやられて……」
「やっぱあいつ信用できねーな。魔石やるんじゃなかった」
ジェラルドが不愉快そうに言えば、ショーンは毛を逆立てながら反発した。
「兄ちゃんはそんなことしない。野盗もやめたんだ!」
「それも本当か怪しいよな」
「嘘じゃない!」
「もう、二人ともやめなよ。とりあえず行ってみよう」
俺達はギルの後に付いて走った。
◇
ギルに連れられて来た場所は、悲惨な状態になっていた。建物は半壊し、家の中も荒らされ、滅茶苦茶だった。
子供は泣き、母親がそれを庇っている。村の男性陣は負傷し、数十人近くが壁際に追いやられていた。そして、その道の中心に短剣を持って立っている人物が一人。
「兄ちゃん……」
「ほら、やっぱりあいつじゃねーか」
「嘘だ! 兄ちゃんはこんなことしない!」
ショーンは俺の腕から抜け出し、キースの元まで駆け出した。
「兄ちゃん!」
「ショーンか、探したんだぞ。勝手にオレから離れるな」
キースはしゃがんでショーンを優しく撫でた。
「お前がいるってことはオリヴァーも来たのか」
「うん、いるよ。でも、でもこれ……」
この状況はどう見てもキースが暴れた後だ。誰が見てもそう見える。しかし、ギルが言った。
「あいつじゃない」
「え?」
「あいつ、仲間割れしたのか知らねーけど、村の人を庇うように戦ってくれてたんだ」
では、これは誰が?
辺りを見渡すと、屋根の上から男が降りてきた。男に見覚えはないが、続いてキースが率いていた野盗が次々と建物の裏から現れて俺達は囲まれた。
「お
「ほぅ、まだガキじゃないか。あんまり痛くないようにしてやるから安心しろ」
頭と呼ばれた男は俺を見てニヤリと笑った。と、同時にキースは叫んだ。
「オリヴァー、逃げろ!」
「え?」
「お前ら行け!」
野盗が恐らく十五人、四方から一斉にこちらに向かって飛びかかってきた。
「うわ、何だこいつら。凍てつく氷よ、如何なる攻撃も防げ
ジェラルドが氷のシールドを張り、シールドにぶち当たった野盗は後ろによろけた。
俺とエドワードも向かってくる敵に剣で対抗した。
「くそ、数が多すぎる」
一対一ならまだしも、複数に攻撃され、避けたり受け止めるので精一杯だ。そして、リアムとノエルを庇うように戦う為、思うように動けない。
「うッ、お頭……じゃなかった。てめぇ何しやがる」
キースも参戦し、野盗を後ろから短剣で斬りつけた。キースが野盗の攻撃を避けながら、俺の元までやってきた。
「キース、なんでこんなことになってんの?」
「分からない。俺もショーンを探してたらコイツらが暴れてたんだ。けど、確かなのはオリヴァー、お前は狙われてる」
「やっぱ聖水?」
「だろうな。それにしても、昨日の今日でよくあんなのと出会えたな」
誰にでもなくキースが呟けば、野盗が言った。
「今のお頭は良いぜ。あんたのように武器を持ってる奴しか狙うななんて言わないしな」
「そりゃ良かったな!」
キースが剣を受け止めたまま野盗の腹部を思い切り蹴飛ばした。野盗は吹き飛び、建物にめり込んだ。
凄い威力の蹴りだと感心していると、野盗の頭がジェラルドの氷壁を拳で叩き割った。氷壁が破られたジェラルドは三人の野盗に短剣を向けられた。
ジェラルドは近距離戦が苦手だ。間に入ろうと思うが、自分に向けられた攻撃に対抗するだけで一杯一杯だ。
「凍てつく氷よ、其れを凍らせよ
ジェラルドが詠唱すると、地面が凍り、野盗らの足が地面にくっ付いて動けなくなった。
「うわ、てめぇ」
「だが、この距離なら問題ねぇ」
足が地面に縫い付けられている野盗は、ジェラルドに短剣を投げつけた。
「お前……」
短剣はジェラルドに刺さらず、ジェラルドを庇ったキースの右胸に突き刺さった。キースはニヤリと笑って短剣を投げた敵を見た。
「誰に向かって投げてんだ?」
「やべッ」
キースが右手を野盗に向けると、手から風のようなものが出た。すると何も刺さっていないのに、突如野盗の右胸から血が吹き出した。
「お前らも投げて良いぞ?」
「いや……」
足場を凍らされた残りの野盗二人は、それ以上動かなかった。
キースの傷は心配だが、ひとまず安堵した。安堵したのも束の間、野盗の頭の拳が俺を襲った。
「わッ」
直撃はしなかったが、よろけて体勢を崩した俺の首元に刃が向けられた。
「終わりだ」
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