第47話 新たな仲間

 俺の首元には刃が突きつけられ、シンと張り詰めた空気が漂う。


「妙な真似すると、ガキの首が吹っ飛ぶぞ」


 ジェラルドが魔法を使おうとしたのだろう。手をこちらに向けたが、野盗の頭の一言でその手は下におろされた。


「おい、お前、本当に人の傷を治したり出来るのか?」


「……」


「恐怖で声も出ねーか? なら無理に出させてやろう。おい、そこの嬢ちゃん連れて来い」


「へい」


 野盗の一人がノエルを俺のそばまで連れてきた。


「お兄様……」


「ノエルに何をする気だ」


「お、喋れるようになったな。お前、この嬢ちゃん必死に守ってたもんな」


 全てお見通しなようだ。既に手も足も出ないが、ノエルを人質にされては何も出来ない。


 野盗の頭は、右胸から血を流している野盗を顎で指した。


「試しにコイツを治してもらおうか。お前を生かすか殺すかはそれで判断してやる」


 俺は言われるがまま、負傷した野盗に手を翳した。詠唱しようとしたその時、ノエルが言った。


「そちらのお兄様は傷は癒せませんわよ」


「ノエル?」


「おい、こいつが聖人様なんだよな?」


 野盗の頭の質問に、近くにいた野盗の一人がやや怯えながら応えた。


「へ、へい、ピンクの頭のガキで間違いないはずです」


「嬢ちゃん、どういうことか説明してもらおうか? 嘘ついてたらオレは女でも容赦しないからな」


 ノエルは淡々と言った。


「わたくしのお兄様は二人おりますの」


 俺だけでなく、周りの誰もが驚いたことだろう。


 俺も本気で考えた。ノエルにはもう一人兄がいるのかと。そうであるならば、俺にとっても兄か弟にあたる。しかし、何故俺自身それを知らない。そこでハッと気がついた。


 ノエルと俺は顔が似ていない。俺はノエルと血の繋がりはなく、ただ髪色が一緒だから連れてこられた養子なのではないか。


 答えに辿り着きショックを受けていると、俺と同じピンクの髪の男性が前に出てきた。


「捕まえる方を間違えるなんてね。その子には何の力もないよ」


 前に出てきたのは、ピンクの頭をしたリアムだった。


 次に取るべき行動を俺は瞬時に理解した。ジェラルドとエドワードもだろう。


「どういうことだ?」


「おい、こんな顔だったか?」


「オレあんま顔見てないから。とにかくピンクってことしか」


 野盗達は混乱し始めた。そこへリアムが追い打ちをかける。


「君達、僕の弟が光魔法使ったところ見たの? さっきだって剣しか使ってなかったでしょ」


「確かに剣だけだったな」


「お頭、この前は物凄い光で攻撃されたんです」


「では、貴様が本物?」


「そうだって言ってるじゃん。見せてあげるよ」


 リアムが両手を天に向けて翳した瞬間、そこにいる野盗全員がリアムの手の先を見上げた。野盗の頭も然り。


 首筋にあてられた刃が少し離れたと同時に、俺は野盗の頭に向かって詠唱した。


「聖なる光よ、一筋の光となりて敵を薙ぎ払え閃光ビーム


 閃光は野盗の頭に直撃し、近くにいた野盗を数名巻き込んで建物にぶつかった。


 ドガーンッ!


 半壊していた建物が全壊してしまった。


「うわー、後で謝罪しないと」


 俺が閃光を出したのを見て、ジェラルドとエドワードも動いていたようだ。その場にいた野盗は全滅していた。


 呆気にとられていたキースが笑いながら言った。


「ははは、お前ら凄いな」


「キース、傷は大丈……キース! 早く治さないと!」


 キースは笑っているが、顔面真っ青で右胸を中心に真っ赤な血が服を染めている。止血をしていないので恐らくまだ血は出続けているはず。


 俺はすぐさまキースに治癒魔法を施したが、失われた血は完全には元に戻らない。キースはその場に倒れた。



 ◇


 

 村人を治癒した後、俺はキースを宿に連れ帰った。ノエルとショーンも一緒だ。他の三名は後処理をしてくれている。


「キース大丈夫かな?」


「いつものことだよ。君が治してくれたからいつもより回復早いんじゃないかな」


 ショーンは慣れた口調だ。これがいつもなら俺と仲間にさせたい気持ちも分からなくもない。


 キースの額に濡らしたタオルをノエルが置くと、キースの顔が歪んだ。


「ノエル、タオル絞った?」


 キースの髪の毛がどんどん濡れてきた。


「いいえ、イケメンは水に濡れた方が数倍魅力を増しますもの。水も滴る良い男と言うでしょう?」


「意味わかんないよ。体調悪いんだからちゃんと看病してあげなよ」


 びしょ濡れのタオルをキースの額から取り、固く絞った。


「ここは……?」


 不快感を与えたおかげかキースは目を覚ました。良いのか悪いのか……複雑な気分でキースに言った。


「今借りてる宿だよ。血を流しすぎたから水分しっかり飲んで休んだ方が良いよ」


「ああ、そっか。ごめんな」


 野盗と戦ったことも思い出したのだろう。


 それよりノエルの言う通りかもしれない。キースが体を起こすと、髪が濡れて魅力倍増だ。キースの周りだけキラキラして眩しい。


「お前には二回も助けられたな」


 キースがニカッと笑って俺の頭を撫でた。それをノエルとショーンがニヤニヤしながら見ている。


「キースはこれからどうするの?」


「うーん……あんなのに負けるくらいじゃ魔王なんてまだまだ無理だろうから、旅を続けるよ。な、ショーン」


「ボクはノエルと一緒にいるよ」


「ショーン、まさかこの子のこと……?」


 キースは何やら勘違いし始めた。


「でも、お前ら魔法使えるってことは貴族だろ?」


「うん」


「何で貴族がこんなとこいるのかはずっと疑問だったが、平民のショーンじゃ無理だ。諦めろ」


「えー、やだやだ。ボクはノエルとずっと一緒にいる」


 ショーンが駄々をこねると、ノエルがショーンを見てニコッと笑った。


「わたくしは大歓迎ですわよ」


「ほら、兄ちゃん良いって」


「いやいや、ダメだ。本人同士が良いと言っても親御さんに話を通さないと」


「旅をしている間は自由ですわ」


 言った方が良いのだろうか。この二人はキースを仲間にしたい同盟を組んでいるだけで恋愛関係にはないことを。


 悩んでいる間にも話はどんどん進む。


「魔王を倒したらノエル達は家に帰るんだって。チャンスは今しかないよ」


「そうですわよ。道中愛を育まないでいつ育めと言うのですか?」


「愛を……」


 キースの顔がみるみる赤くなっていく。


 ノエルとショーンの話ではなく、俺とキースの愛の話だろうが、そこは恥ずかしくて訂正できない。


「だから兄ちゃん、オリヴァー達のパーティーに入ろうよ。そうしたら二十四時間ずっと一緒にいられるよ」


「ショーン、お前そんなに……」


 キースは暫し考えて俺を見た。


「オレが入っても良いのか?」


「うん、俺は別に。ジェラルドとリアムは何て言うか分かんないけど……」


「お二人の許可は既にとってありますわ」


「え?」


 あんなにキースを仲間にするのを嫌がっていたのにいつ許可を取ったのだろうか。


「君が村人を治癒してる時だよ」


「快く了承して頂きましたわ」


「了承得てるなら良いけど」


 快くってところがどうも引っかかるが、キースの仲間入りが決定したようだ。

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