第3話 特訓開始
俺は走らされている。物凄い長距離を。
「剣を扱うにしてもまずは体力作りだ!」
「はぃ」
「声が小さい!」
「はい!」
スパルタ特訓をしている剣術の師匠はヒューゴ・グローヴァー、騎士団の副団長。ガッチリとした体型で男の中の男って感じの人だ。
そんな師匠から稽古をつけてもらっているのは俺だけではない。カリーヌの兄エドワード・アルベールと騎士を目指すその他大勢だ。
「よし、休憩だ。よく頑張ったな」
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」
「お疲れ様」
エドワードが隣に座って爽やかな笑顔を向けてきた。同じだけ走っているというのに、息一つ切れていない。
しかも、筋力トレーニングもしているはずなのに、服を着れば鍛えているようには見えないシュッとした体型をしている。
「始めて一週間、よく持ってるね」
「え?」
「大体一日か長くて三日で皆脱落していくんだ」
脱落して良いの? 早く言ってよ。
転生者ごっこが終わるまでと思ったが、ハード過ぎてついていけない。皆脱落するならノエルも許してくれるはず。
よし、今からやめてこよう!
俺が立ちあがろうとすれば、エドワードは満面の笑みで言った。
「これからも一緒に頑張ろう! 剣を持てるのはもう少し先だろうけど、この特訓の成果は必ず将来の糧になるはずだ」
「う、うん」
「貴族が勇者なんて馬鹿げていると思っていたけど、勇者も騎士も人を守る為に戦うのは同じだ。僕は君を同志として認めるよ!」
「あ、ありがとう」
爽やかな見た目に似合わず、エドワードは熱血なようだ。そして、貴族が勇者なんて馬鹿げていると思うなら、何故特訓が始まる前に反対意見を言ってくれないのか。
それにだ、同志と認められて握手までしてしまったではないか。早々にやめたいなんて言えなくなってしまった。
「勇者になれるかな……」
「なれるさ!」
「はは……」
暑苦しい……。そうだ。ジェラルドに愚痴をきいてもらおう。ヒューゴの特訓がハードすぎて身体的にも精神的にも滅入りそうだ。
「はい。休憩終わり。後半もビシバシ扱いていくからな!」
「オリヴァー行こう」
「うん」
ひとまず筋肉を極限まで痛めつけてから幼馴染のジェラルドに会いに行くことにした。
◇
ジェラルドの屋敷にて。
「おい。来て早々、人のベッドに寝るなよ」
「だって足が、腕が、全身がパンパンなんだよ」
「お前は騎士を目指すのか? そういうの嫌いじゃなかったか?」
「嫌いだよ。出来れば座って勉強してたいよ」
ジェラルドが俺の足を指圧し始めた。しかも手に冷気を纏いながら。氷魔法とはアイシングもできるのか。
「うわー、気持ち良い……」
「こんなこと侯爵令息にやらせてるのお前くらいだからな。感謝しろよ」
「するする。自室に肖像画飾って毎日祈りを捧げるよ。だから、腕もお願い」
「はいはい。ッたく、またノエルだろ。お前ノエルに甘すぎんだよ」
「だって可愛い妹なんだよ」
ノエルを無下にはできない。ノエル自らが『勇者? それは何ですの?』『わたくしったら馬鹿でしたわ』くらいなノリにならなければ。
「ねぇ、ジェラルド」
「なんだ?」
「ピンクの髪に光属性と言えば?」
「は? 何言ってんだ?」
「良いから。ピンクの髪に光属性と言えば?」
「お前だろ」
まぁ、そうなるか。
「そんな俺は、どんな職種が似合うと思う?」
「うーん……まぁ後継関係なしで光魔法だけで言うなら医者かな。後は聖職者かな」
「だよね」
やはり俺と同意見だ。最近ノエルだけでなくカリーヌやエドワードまで勇者勇者言ってくるので騙されそうになる。自分がおかしいのではないかとさえ思ってしまう。ジェラルドと話していると安心する。はぁ、マッサージも気持ちいいし……。
「おい、オリヴァー? オリヴァー?」
疲労困憊なのとジェラルドのマッサージが気持ち良すぎて俺はそのまま眠りについた。
◇
「はぁ……よく寝た」
トントントン。
「はぁい」
「お兄様、お迎えに上がりまし……まぁ!」
「ノエル?」
ノエルが固まったかと思えば頬をピンクに染めて早口で呟き始めた。
「まさかジェラルド様と? まぁ、赤ちゃんの頃から裸の付き合いをしていたし、あり得ないことではないわね。どっちが攻めでどっちが受けかしら。外見で言えばお兄様が受け? あ、もしやここはお兄様が主人公のBLの世界だったり?」
「ノエル? 大丈夫?」
俺の呼びかけでノエルがハッと我に返った。
「失礼致しました。わたくしとしたことが。お兄様とジェラルド様の門出を祝って本日はお祝いを致しましょう」
「は? 門出?」
「んんー、朝からうるさいなぁ」
ん? 隣からジェラルドの声がする。
顔を横に向けると、紺色の髪が見えた。そしてよく見るとここは俺の部屋ではなくジェラルドの部屋だ。
「あー、ジェラルドごめん。昨日そのまま寝ちゃったのか」
「疲れてたんだろ。朝食もとってけよ」
俺とジェラルドが何気ない会話をベッドの上でしていると、ノエルはキラキラした瞳で俺とジェラルドを交互に見た。
「例えここがBLの世界だったとしてもわたくしはお兄様を応援致しますわ」
「オリヴァー、びーえるって何?」
「さぁ?」
「ノエルの喋り方も変じゃない?」
「最近変なんだよ」
言葉の意味は分からないが、ノエルの頭の中は妙な妄想が繰り広げられていることだけは分かった。
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