第28話 みんなの気持ち

 資料庫から得られた資料を手に、僕はそのまま自宅へと向かった。…そんな僕の事を、玄関前で二人の男たちが待ち受けていた…。


「遅いですよ先輩~」

「やっと帰ってきたか。随分と待たせやがって…」


 帰ってきた僕の姿を見て、やれやれといった表情を浮かべる遠山とはやと。そう、僕は二人の事を自宅に呼び出していたのだった。


「…で、どうだったんだ?証拠は集まったのか?」


 はやとは僕の目を見据えながら、どこか楽しそうな様子でそう言葉を発した。それに対して僕もまた、彼と同じような口調で言葉を返す。


「あぁ、そろったよ。…その様子じゃ、そっちもうまくいったみたいだね」

「あたりまえだ。俺を誰だと思ってる」

「おぉ!さっすが先輩方ですね!」


 はやとからの返事を聞き、僕も遠山もそろって笑みを浮かべる。


「…まぁ、詳しいことは中で話そうじゃないか」


 僕はそのまま二人を手で招くと、さやかの待つ自宅の中へと招き入れた。


――――


「ただいまー」

「おかえり!」


 玄関を開け、さやかに対してただいまを手話で伝える僕。さやかはすでに玄関の前で待っていてくれたようで、そのまま僕に対して手話でおかえりと伝えてくれた。


「さやかちゃん、久しぶりだね。大学の時に会って以来になるか?」


 さやかと久方ぶりの再会を果たしたはやとが、どこか感慨深そうにそう言葉を発した。当然その声はさやかには届かないため、僕は手話を通じてはやとの言葉を彼女に伝える。


「ぼ、、僕ははじめましてですね!高野さんの部下の遠山と言います!よろしくです!」


 はやとに続き、遠山もまた明るい口調で言葉を発した。僕はそれも彼女に手話で伝えると、彼女からよろしくお願いします!と返され、それを遠山に伝えた。


「二人とも、奥の部屋に上がってくれ。お菓子とお茶を用意してある」

「了解」

「おじゃましまーす!」


 二人は僕の言葉を聞き、そのまま奥の部屋を目指して足を進めていった。それを見届けた後、僕は再びさやかに対して言葉を告げる。


「突然二人を迎える準備してくれてありがとうさやか。助かったよ」


 僕は事前に二人の来訪をさやかに伝えていた。さやかは僕のお願いを聞き届けてくれ、事前にお茶やお菓子の準備を整えてくれていた。

 僕の言葉に対し、さやかはどこかいたずらっ子のような表情を浮かべ、こう返してきた。


「このお返しは、動物園デートで!ね!」


 楽しそうに笑みを浮かべる彼女に対し、僕はOKのサインを送り、そのまま二人の待つ部屋の中へと足を進めていったのだった。


――――


 部屋の中には僕とはやと、そして遠山がそろった。それぞれが椅子に腰を下ろしたのち、最初に口を開いたのははやとだった。


「相変わらずさやかちゃんはかわいいなぁ。お前の彼女にしとくにはもったないぜ…」

「あ!僕も思いました!話に聞いてたよりもうんとかわいくてびっくりです!」

「あたりまえだろう。さやかは世界で一番かわいいんだから」

「「……」」


 …僕は本当の事を言っているだけなのに、二人は途端にやれやれと言った様子で沈黙する。


「…で、つかさ、これからどうするつもりなんだ?」


 さっきまでの穏やかな雰囲気とは違う、真剣な表情ではやとは僕にそう言った。


「お前が突き止めたという、リースリルをつぶしてしまいかねないほどの大きな秘密。それを世間に暴露し、責任者に罰を与えるのは簡単なことだ。しかしそれをすると、同時にお前が開発に成功した薬の製造開発は叶わなくなってしまう可能性が高い。それはもしかしたら、さやかちゃんの耳の治療をより困難なものにしてしまうかもしれないわけだが…」


 その質問は、かつてはやとから投げかけられたものだった。あの時はなかなか良い答えが思い浮かばなかった僕だけれど、今ならはっきりと答えられる。


「これはもう、僕たちだけの問題じゃないんだ。君たち二人はもちろん、滝本さんに来栖博士、さらにはリースリルという大会社をも巻き込むほどの問題になっている。僕には、僕に協力してくれた彼らの思いにこたえなければならない責任があるんだ。僕の望む新薬開発のためにリースリルの隠蔽に手を貸し、彼らの思いを裏切り踏みにじることは、僕にはできない」

「…覚悟は決まったってわけだな」


 僕の言葉を聞いて、はやとは自身のカバンの中から一式の資料を取り出した。


「お前に頼まれてたやつだ。やれやれ、これでお前から注文される面倒な仕事が終わりだと思うと清々するぜ」

「悪かったね(笑)。でも、ありがとう」


 僕ははやとから差し出された最後の資料を手に取り、その内容を確認する。

…さすがははやと。僕が頼んでおいた情報が、完璧にそろえられている…。


「先輩、僕も準備してきましたよ!これ!」


 そんなはやとの姿を見てか、遠山もまた自身の懐からあるパンフレットを取り出した。


「来週行われる、リースリル製薬講演会、黒田紀之の部の情報です。……先輩、ここですべてに決着をつけるんですよね?」


 遠山のその問いかけに、僕は首を縦に振ってこたえた。講演会に直接乗り込むというのは、なかなかにリスクのあるやり方だ。その場で僕がなにか言ったところで、相手にされずつまみ出される可能性だってある。

 …けれど、黒田さんはああいう性格だ。僕の方から乗り込んで挑発をかければ、必ず向こうは乗ってくるという確信があった。


「…二人とも、ここまで手伝ってくれて本当にありがとう。…ほんと、どうお礼を言ったらいいのか…」


 僕の発した言葉を聞いて、二人は互いに視線を合わせると、そろって笑みを浮かべながらこう答えた。


「ここまで来たんです!相手になんて構わず、派手にやっちゃってください、先輩!!」

「…学生の時から変わったやつだと思っていたが、まさか世界的製薬企業に戦いを仕掛けることになるとは思ってもいなかったぜ。………だがつかさ、お前には誰が相手だろうと関係ない。遠慮なくぶちかましてやれ!!」


 心から僕を勇気づけてくれる二人の言葉。僕は二人の思いに、自分の首を縦に大きく振ってこたえたのだった。

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