ぼくとアオくんとシャチョーと。

@macaron777

第1話 ひろわれた青年

「…なんすか、その人」


夕飯の支度を始めた頃、ずぶ濡れの青年を連れてシャチョーが帰ってきた。


青と白のストライプのシャツに、インディゴのジーンズを履いた青年は、濡れて服が張り付いているのもあってか、貧相とも言えるほど細かった。


恰幅の良いシャチョーの隣に立っているせいもあって、余計にそれが際立っている。


下を向いた顔には長めの栗色の髪が張り付いていて、表情を伺うことができない。立っているから生きているのだろうが、全くと言っていいほど覇気が感じられなかった。


「いやいや、なんか道端で座ってたからね、ひろってきちゃった」

「ひろってきちゃったって…」


ぼくは、呆れた。


シャチョーはいつもそうだ。

前だって、よくわからない少年をひろってきてはしばらく住まわせていた。


最初は素直で良い子だと思ったが、慣れてくると本性が表れたのか、やたらとケンカをあたりかまわずふっかけるクソヤロウへと変わっていった。

そのせいで何度警察に頭を下げることになったことか。


結局その少年は、500円玉用の貯金箱に入っていた数万円を持って突然いなくなった。今思い出しても、腹が立つ。もう名前すら思い出したくない。


なのにシャチョーは、懲りずにまた人をひろってきた。

人が良いを通り越して、バカなんじゃないかと思う。


それにしても、そんなに人が落ちてるものか?

シャチョーには、落ちてる人を探すセンサーでもついてるんじゃないかと疑いたくなる。


「しかも、なんでシャチョーまでびしょ濡れなんすか」

「いやいや、もしかしたらうまく間に合うかもって思ったんだけど、間に合わなかったね」


いい大人なんだから傘くらい買えよ、と心の中で悪態をつく。


「あ、これ頼まれてた買い物のやつね」


シャチョーは、ぼくのそんな気持ちを知ってか知らずか、スーパーの袋を渡してくる。


「あ、どうも。ありがとうございます」


ぼくもぼくで、反射的にお礼が口をついて出る。

憎まれ口よりも先にお礼が出てしまうなんて、厳しく躾けられたことがうらめしく思う。こんな時に嫌味の一つでも言える図太さがあれば…。


「…ふぅ…」

文句を言いたいのをグッとこらえて、息をはき出す。


そして、スーパーの袋をリビングのテーブルに置き、洗面所からタオルを2枚取って玄関へ戻る。


タオルを差し出しながら、


「とりあえず、見てるこっちが風邪ひきそうなんで、風呂入ってもらえますか?」

そんなぼくの嫌味なんかどこ吹く風、シャチョーはニコニコしながら

「そうだねぇ」


と言いつつタオルを受け取ると、1枚を広げて青年の頭にかける。もう1枚を広げて自分の頭を拭きつつ、青年の様子を確認している。


青年が頭を拭く様子が見られないと、自分の濡れた頭はそこそこに、青年の頭をワシワシと拭き出した。


青年もなすがまま、シャチョーに頭を拭かれている。


(そのくらい自分でやれよ…)


そう言いたかったが、ここまで何の反応もないということは、何かの理由で心が折れているのかもしれない。


「どうせだったら、一緒に入ったらどうですか?」


ぼくは肩をすくめつつ、夕飯の作るためにキッチンに戻る。


後ろから「そうだねぇ」というシャチョーの声が聞こえて、靴を脱ぐ音がする。


風呂の扉が開いたかと思うと

「じゃあ、さっさと入っちゃおうか」

とシャチョーの声がする。


(マジで一緒に入んの!?)


冗談のつもりで言ったのに、冗談だとは取られなかったようだ。

お互い見ず知らずなのに、一緒に風呂に入るなんて猛者すぎる。


しばらくするとシャワーの音が聞こえ出した。


シャチョーが青年に何か話しかけているようだが、こもっていて何を言っているかは聞き取れない。本当に一緒に入ったようだ。


よく一緒に入れるな、と思いながら、ぼくは昔のことを思い出していた。


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初小説、初投稿です。

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