第46話 その後の二人<ルーカスの報告>

「まだはっきりしていないことなのでご報告するかどうかを迷ったのですが…」


そう言ってルーカスは言葉を続ける。


「ここ数日アリシアの体調が優れず、昨日医師の診察を受けました」

「そうか。アイラ王女の件もあってストレスを溜めてしまったのかもしれないな」


ニキアスが些か申し訳なさそうに返答するが、ルーカスも悪いのがニキアスではないことは重々承知している。

アイラの問題行動はニキアスのせいではないからだ。


「いえ、それは…」


もちろん、アイラからのストレスが無かったとは言わない。

アリシアは嫌な思いも不快な思いもしただろう。

しかし、体調不良の一番の原因はアイラでは無かった。


「実は…クラトスに兄弟ができるかもしれません」

「…なんだと?」


はっきりと懐妊したと言えなかったのはまだ確定していないからだ。


「懐妊と言い切るには時期尚早らしく、可能性が高い、という段階なのです。しかし現状アイラ王女の件もありますのでニキアス殿下には早めにご報告させていただいた方が良いのではと判断しました」


ルーカスの報告にニキアスは一瞬驚いたものの、次の瞬間破顔した。


「そうか、そうか、それはおめでとう!」

「いえ、まだ本当にそうだ、と確定したわけではないので」


ルーカスとしてもニキアス同様喜びたいところだが、妊娠はとても繊細なものでもある。

確定する前に喜び勇んでしまい、その後に悲しい結果にならないとも限らないと思うと、自らを律するべきだと思えた。


「それならアイラ王女がごねることもできないだろう」

「いいえ。このことはアイラ王女には内密に願いたいのです」


内密にするためにも、ルーカスはニキアスの協力を仰ぎたかった。


「なぜだ?慶事であるし、二人目の子が産まれるとなればアイラ王女がルーカス公とアリシア夫人の仲に割って入ることはできなくなるだろう?」

「アイラ王女が何をするかわからない方だからです」


アイラはこちらの常識が通じない部分がある。

さすがにアリシアを直接害すことはないと思うが、ストレスがかかったり気がかりなことがあるのはアリシアにもお腹の子にも良くない。


つまり、ルーカスとしては今後アリシアをアイラの相手として交流を持たせたくない、ということだ。


「なるほど。たしかにアイラ王女には何をやらかすかわからないようなところがあるな。…わかった。今後アリシア夫人にご協力願うのは止めておこう。ディミトラも体調次第となるが、アイラ王女の滞在期間も残り半月。なんとかなるだろう」


ニキアスから承諾を得られ、ルーカスはほっとした。

この話をすればニキアスが無理強いしないことは予想がついた。


それでも、人によっては臣下として我儘ではないかという者もいる。

ルーカスは何を言われてもアリシアと子どものことが一番ではあるが、軋轢は生まないに越したことはない。


「そうか。となると、私とディミトラの子と同じ年になるのか?」

「順調にいけば、そうなるかと」


ルーカスの返答に、ニキアスは良いことを思いついたとばかりに瞳を輝かせた。


(ああ。また何か困ったことを言い出しそうな顔をしているな)


ルーカスが心なしか警戒したところでニキアスは言った。


「我が子が男でルーカス公のところが女の子であれば嫁にもらえないか?」

「お断りします!」


つい条件反射でルーカスが断る。


「では、我が子が女でルーカス公のところが男の子であれば嫁にどうだ?」

「それもまた難しいかと!」


これまた条件反射だ。


いずれ皇太子に、そしてその後は国王になるであろう子に嫁がせるのは娘が大変だ。

逆に王家の姫に降嫁していただくのも同様。


ルーカスとしては余計な面倒ごとを妻と子に背負わせたくは無かった。


「まぁまぁ。今すぐに断らなくてもいいだろう?ゆっくり時間をかけて考えようではないか」


ニキアスの答えに、


(私の答えは決まっているし、変わらない)


と心の中で思いつつ、ルーカスは一礼した。

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