第44話 その後の二人<アリシアの異変>
ルーカスにとって、休暇はあるようで無い。
公爵領の仕事の中でも書類仕事には期限のあるものが多いが、それ以外に関してはある程度自分で仕事のコントロールはできる。
それでもルーカスはあまり休むことはなかった。
というのも、元々当主になる教育を受けてこなかったからいまだに自分に足りないものが多いと思っているためだ。
だからその日もルーカスは公爵邸の書斎で家令の報告を受けながら仕事をしていた。
そこにアリシア付きの侍女がやってくる。
アリシアは自分の中で解決できることに関して、ルーカスに言わずに済ます傾向があるから何かあれば必ず報告するように言ってあった。
「何があった?」
手元の書類を机に置くとルーカスは侍女と目を合わす。
ルーカスは自邸の使用人が話す時は仕事の手を止めてでも相手の目を見て話すことを心がけていた。
しっかり見ていれば気づくことも、何かをやりながらでは見逃してしまうことが多いからだ。
「奥様からはご主人様へご報告する必要はないと言われているのですが、奥様は昨日からご体調が優れない状態が続いています」
(そういえば今朝一緒に朝食をとった時にいつもよりあまり食べていないと思ったが、無理をしていたということだろうか)
「そうか…。体調はどんな感じだ?」
「吐き気が強く、時々頭痛もするようです」
「わかった。今アリシアはどうしている?」
「先ほどお休みになるということで寝室に入られました」
指示通りに報告にきた侍女に労いの言葉をかけると、ルーカスは侍女を下がらせる。
「アリシアのところに行ってくる」
家令にそう告げてルーカスは書斎を出た。
仕事はまだたくさん残っているが、それよりもアリシアの体調が心配だった。
コンコン。
夫婦の寝室であってもルーカスはノックをしてから扉を開ける。
「アリシア。体調が優れないと聞いたが、大丈夫か?」
「ルーカス…。今はまだお仕事中でしょう?私のことは気にしなくていいのに」
そう言うと、アリシアはベッドの上に身を起こした。
「アリシアは無理しがちだからな。何かあれば言って欲しいといつも言ってるだろう?」
「大したことはないのよ。少し体調を崩しただけで」
「多少のことであっても、いつもと違うなら心配だ。医者を呼ぼうか?」
「大袈裟よ。少し休んで様子をみるわ」
「そうか…でも体調が良くならなければ必ず受診してくれ」
無理に医者を呼んだところでそれはそれでアリシアが気にするため、ルーカスもひとまずは様子をみることにする。
それでも体調不良が数日続くようであればアリシアが何と言おうと医者を呼ぶつもりだった。
「クラトスは乳母のところか?」
「ええ。クラトスがいると休まらないだろうと言って預かってくれているわ」
アリシアは基本的に自分でクラトスを育てているためたいていは一緒にいる。
でもさすがに体調不良では面倒がみられないのだろう。
「そうか。ではこの後は私がクラトスと遊ぶことにしよう」
「お仕事は大丈夫なの?」
「たまには休めと言われているから大丈夫だ。ちょうど疲れてきたところだし、クラトスに癒してもらうよ」
「あら。さらに疲れるかもしれないわよ?」
ルーカスの言葉に、アリシアが笑って答える。
仕事は大事だ。
領民に対しての責任もある。
それでもルーカスは必要があればアリシアたちのことを優先してくれる。
もちろん、実際の仕事に影響がない状況だからではあるが、その気遣いがアリシアは嬉しかった。
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