第43話 その後の二人<ご令嬢の認識>
アイラが学園への体験授業に参加するようになって半月が過ぎた。
ルーカスは必要に応じて学園に付き添うこともあったが、できる限り近衞騎士に任せて王城や公爵邸での仕事に従事している。
「王女は大人しく学園に通っているのか?」
定期報告のためにニキアスの執務室に来ていたルーカスは小さくため息をついた。
「授業に関しては思った以上に真面目に参加しているようですが、他の生徒との交流はあまり上手くいっていないようです」
「それは彼女がトウ国の出身だからか?」
「いえ、どちらかというと王女の態度の問題かと」
見た目に対する違いは若ければ若いほど気にしない。
ロゴス国でそのことを一番気にするのは王城にいる年嵩の者くらいで、学園へ通うような若い世代はそのことでことさら差別することはないだろう。
もちろん、親や祖父母から言い聞かされていればまた別だが、それも少数派だ。
正直学園内で問題なのは王女の言動や行動だった。
母国でよほど好きに過ごしていたのかあまり教育されていなかったのか、思ったことをすぐに言ってしまう。
良く言えば裏表がないということだが、貴族社会は体面を重んじることを考えるとそれでは困る。
学園に通う生徒は各家で厳しく躾けられ教育されてきた者ばかりなため、思慮の浅い王女の言動は特に女子の間で敬遠されていた。
男子生徒の中には相手が王女ということもあり近づこうとする者もいたようだが、そもそも位が低い者に対しては王女の方が相手にしていない。
「なるほどな」
そう呟いて、ニキアスは楽しげにルーカスを見た。
(何か良からぬことを考えていそうな顔だ)
嫌な予感がしてそう思ったルーカスに対して、ニキアスがおもむろに話し始める。
「今貴族令嬢の間でルーカス公の人気が急上昇しているということを知っているか?」
「…は?」
思わぬことを聞いてルーカスの眉間に皺がよった。
「どれだけ王女があの手この手で迫ろうとも、妻と子が一番大事という姿勢を微塵も崩さず王女に1ミリも心を動かされない様がいいのだそうだ」
「妻と子が一番大事というのは当然でしょう?」
ルーカスにとっては当たり前のことすぎて、なぜそれで人気が上がるのかがわからない。
「そうではない者も多いということだ。知っての通り貴族の婚姻は政略的なものがある。たとえ望んでいない相手だったとしても家のために結婚し後継をもうけることがまだまだ多い。そして義務は果たしたとばかりにそれぞれが別に相手を持ち家庭をかえりみないこともそれほど珍しくはないということだ」
ニキアスの言葉にルーカスも思い当たるところはある。
ディカイオ家は母の輿入れの経緯が若干特殊だったから別としても、学生時代から含めて、仮面夫婦のような家庭は多かった。
「それを思うと、いつでもどこでも誰が相手でも、妻子が一番と言っているルーカス公は素敵、となるらしい」
自分のあずかり知らぬところでそんな風に噂されていると聞かされて、ルーカスは反応に困る。
「だからこそ、王女が所構わずルーカス公にアプローチするのが気に入らないご令嬢も多いということだ。私たちの理想の夫婦の邪魔をするのか、とね」
「…ご令嬢方に私たち夫婦を好意的に見てもらえているのは嬉しいですが…」
言葉に窮してルーカスは言い淀む。
「まぁ、悪く見られるよりはいいだろう。それよりも王女には困ったものだね。調べる限り今回の来国は降嫁先を探すためだろうが、これではどこも受け入れることは難しい」
「まだ正式に打診があったわけではないので猶予はあります。それに受け入れなければいけないものでもないでしょう」
「ほう。平和主義で、望まれればできる限り相手の意向を汲むルーカス公にしては珍しいな」
「私としてもアリシアとの間を引っ掻き回されるのはごめんです」
「そういえば、ルーカス公はことアリシア夫人に関してだけは許容範囲が狭いんだったな」
「同じ言葉を殿下にお返しします」
ニキアスとて、ディミトラに何かあれば烈火のごとく怒るだろう。
「いずれにせよ、王女がこちらにいるのもあと1ヶ月半くらいでしょう。このまま大人しくお帰りになるのを願っていますよ」
そう言ったものの、ルーカスも王女がこのまま何事もなく帰るとは思えなかった。
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