第37話 その後の二人<ディミトラからの助言>
「どうやら王女は個性的な人みたいだな」
アイラとの顔合わせから三日後、アリシアは体調が回復したディミトラから呼ばれて登城していた。
「個性的…ですか?」
「ま、悪く言えば自分勝手な人、だけどね」
以前は王城に呼ばれるたびに緊張していたアリシアも、ディミトラの部屋に呼ばれるのが珍しくない今ではある程度リラックスして過ごせるようになっている。
ディミトラはディミトラでアリシアの敬称を略すようになり、アリシアには自身を名前で呼ぶように求めた。
緩やかに時間をかけながら、不敬でなければ友人のような関係性を築けているとアリシアは感じでいる。
「トウ国の当代には王女が多くいると聞いている。自国内での縁組ももちろん進めていくだろうが、これを機に他国と縁づかせるつもりなのではないか、というのがニキアスの考えだ」
「ロゴス国にアイラ王女が嫁ぐ、ということでしょうか?」
「可能性は考えられるね。今回の来国で王女に相応しい相手を探しているのかもしれない」
そのアイラ王女はルーカスに並々ならぬ興味を抱いているように思える。
アリシアはルーカスから愛されているとちゃんとわかっているが、それでも不安を拭えないのは自分に自信が無いからかもしれない。
「ルーカス公はアイラ王女にとって自分と同じ国にルーツがあり、見た目も黒髪黒眼と一緒だ。当然ルーカス公自身は偏見を持っていないし他国に嫁がなければならないアイラ王女にとっては理想的な相手なのかもしれないな」
ディミトラの言葉はかなり核心をついていそうで、アリシアの心の不安は増していく。
「アリシアは何を心配している?」
ディミトラの不意の問いかけに、アリシアは知らず知らずの内にうつむいていた顔を上げた。
「心配…ですか?」
「そうだ。ルーカス公はアリシアの気持ちを考えられない男か?」
「いいえ」
ルーカスはたしかに気が利かないところがあったが、今では言葉を惜しまずに伝えてくれるしアリシアの気持ちを聞いて尊重してくれている。
「私にはルーカス公は犬のように見えるのだがな」
半分笑いながらのディミトラの言葉にアリシアは驚く。
「犬…ですか?」
あのルーカスが犬。
アリシアは頭の中で想像してみようとするが、なかなか難しかった。
「自分の主人にだけ忠誠を誓い全力で守り、敵には獰猛に牙を剥く」
アリシアは黒い大型犬を想像する。
「というのは表向きな理由で、そう思う一番の理由はアリシアに対する態度だよ」
ディミトラは優しげな顔でアリシアを見た。
「どう見ても、飼い主に構って欲しくて周りをうろちょろしている犬だろう」
「…っふ…」
ディミトラの言葉に、アリシアは思わず小さく笑いを漏らす。
「当たっているだろう?」
ディミトラの楽しげな声に、アリシアの中に降り積もっていた不安が少し晴れたような気がした。
「信じるべきは自分の心とルーカス公の言葉だ。周りの言葉に振り回される必要はない。それに、アイラ王女の勝手をニキアスは許さないと思うよ。なんと言ってもルーカス公はニキアスにとってもなくてはならない側近だからね」
何を信じるのかを間違えるな。
ディミトラからの助言を、アリシアはしっかりと心に留めた。
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