第30話 その後の二人<お茶会>
ディミトラ付きの侍女によって丁寧に入れられたお茶を前に、アリシアはまだ少しの緊張を感じていた。
「楽にしてくれ…といってもなかなか難しいか」
苦笑しながらのディミトラの言葉にさすがに素直に『はい』とは言えない。
「アリシア夫人がどう思っているのかはわからないが、ルーカス公のことがなくても私はアリシア夫人と話してみたいと思っていたんだが、伝わっていただろうか?」
率直なディミトラの言葉にアリシアは驚きで目を見開いた。
「ニキアス殿下と夫の関係上機密は守られますし、皇太子妃殿下の今回の件をお話しできる相手が限られるからかと思っておりましたが、そう言っていただけて嬉しく思います」
王族の私的な空間とはいえどこに誰の耳があるかわからないため、アリシアは肝心なことはぼやかして答える。
「そなたのそういった心遣いができるところも好ましく思っている」
「ありがたき幸せにございます」
いくぶん空気が砕けて先ほどよりも気安い雰囲気になったところでアリシアは一口お茶を飲んだ。
「アリシア夫人は自分を含めて周りが変化することをどう受け止めている?」
抽象的でありながら、おそらく今回のお茶会でディミトラが聞きたいことであろう内容の問いにアリシアはディミトラを見た。
その瞳には喜びと戸惑いと、他にも多くの感情が透けて見える。
(そうなのね)
不意に得心がいって、アリシアは心の中で独りごちる。
ディミトラは、待望の懐妊ではあるけれどその現実に誰よりも戸惑っているのかもしれない。
妊娠は女性の心身を大きく変化させる。
今までとは違い思うようにならない心と身体。
その上ディミトラは子の誕生を待ち望まれている。
必ず問題なく産まなければならないプレッシャーや、今後変化していくであろうニキアスとの関係性もあるかもしれない。
すべては初めてのこと。
たとえ常日頃冷静なディミトラといえども思い悩むことは多いのだろう。
「私の場合、子どもを授かった時は夫との関係も拗れておりましたし悩むことも多くありましたけれど、幸い実家の家族が何でも話を聞いてくれましたのでとても助かりました」
特に弟のイリアには感謝している。
あの時ずっとアリシアのそばにいてくれて、何くれとなく話をしてくれたことがどれだけアリシアにとって助けとなったか。
話すことは悩みを手放すことでもあるから。
「僭越ながら、私でよろしければ何のお話でもお伺いいたします。必要とあらば道端の花のようにただそこに在るだけの存在になりますので、気がかりなことがありましたらお話しいただければと存じます」
アリシアの言葉に、ディミトラは小さく微笑んだ。
「アリシア夫人にはお見通しとみえる」
そして椅子にゆったりと身を預けると、いくぶんリラックスした様子で話し始めた。
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