第20話 剣術大会<11>
決勝戦はルーカス・ディカイオ公爵と第1騎士団副団長のブライトンによって行われる。
会場内にアナウンスが流れ、場内の熱気は最高潮に達していた。
アリーナの中心に二人の姿が見えると周りの歓声でアナウンスの声さえかき消されそうだった。
アリシアは心持ち座席から身を乗り出し、ルーカスのことをじっと見つめる。
ルーカスが負けるとは思っていないがそれでもケガの心配がないわけではない。
アリシアは自然と両手を祈るように握り試合の開始を見守った。
試合の審判が二人にそれぞれ声をかけ開始線に誘導する。
一瞬の静寂の後、試合開始の鐘が鳴った。
今までどの試合でもルーカスがその場から動くことはなかった。
しかし今回は違う。
開始の合図と共に動いた二人はちょうどアリーナの真ん中で剣を切り結んだ。
そしてキンっと音がするとすぐに二人は飛び退る。
今大会初めてルーカスが試合中に自ら動いたことに、場内はさらなる興奮に包まれた。
「ほう。あのルーカス公もブライトン副団長のことは認めているということか」
王族観覧席からニキアスの声が聞こえてくる。
「ピズマ騎士団長と共に人望のある男だからな」
ディミトラがニキアスの声に応えた。
アリーナではその後も何度か二人が切り結び、そして剣をかわす姿が見える。
アリシアは剣術のことはわからないが、遠目からでも心なしかルーカスが楽しそうなのが見てとれた。
考えてみればルーカスは幼少期から剣術や武術を始めて職業としても騎士を選んでいる。
公爵家を継いだため警備などで現場に出ることは無くなったが今でも鍛錬は続けていた。
立場上統括する側にいるが、元来体を動かすことが好きな人だ。
ましてや試合の相手が自身も認めた人なら尚のこと今この瞬間を楽しんでいるのではないかと思えた。
興奮に湧く観客に見守られながら二人の試合は続く。
一体どこで決着がつくのか、そう思われた瞬間、ルーカスの剣がブライトンの脇腹を捕らえた。
アリーナにブライトンが倒れ込み、それにより勝敗が決する。
「勝者、ルーカス・ディカイオ公爵!」
勝利を告げるアナウンスの声に今日一番の歓声が上がった。
アリーナでは倒れたブライトンにルーカスが手を差し出して助け起こしている。
幸いにもブライトンは一時的に倒れ伏しただけで大きな怪我はなかったようだ。
のちに黒雷とも呼ばれるルーカスが初めて参加した大会は、こうして幕を閉じたのだった。
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