第19話 剣術大会<10>
第1騎士団副団長のブライトンは決勝戦を前にし精神統一をしていた。
控室に対戦相手となるルーカスはおらず、一人だけの空間だ。
ブライトンはルーカスが第1にいた頃から所属していたため昔のルーカスを知っている。
以前のルーカスといえば性格は真面目で騎士団の仕事にも勤勉に励んでいたものの、どことなく捉えどころがない感じだった。
剣術の才能はあったし鍛錬をおろそかにすることはなかったが、目立つことは嫌っていたように思う。
現に大会と名のつくものには頑として出なかった。
それがニコラオスが亡くなって公爵家を継いで以降、蛹が羽化するかのように変わっていった。
どちらが良いかと言われれば、ブライトンとしては今のルーカスの方が好ましい。
一体何があって彼がそこまで変化したのか、興味がないと言えば嘘になるが、だからといってことさら詮索する気はなかった。
現在の第1騎士団の中にルーカスに対して反発する者がいるのはブライトンも知っている。
今回のルーカスの参加はだからこそなのだろう。
そしてルーカスの本当の実力について、ブライトンも知らなかったがおそらく騎士団長は知っていたに違いない。
結果として決勝戦はかつて第1騎士団に所属していたルーカスと現在第1騎士団に所属しているブライトンということで、観客はさまざまな思惑で盛り上がっている。
準決勝戦までのルーカスの戦いをブライトンは可能な限り観戦した。
そして、ルーカスの実力は想像以上だった。
なぜあれだけの実力を隠していたのかブライトンには理解できない。
そして今の自分が彼と戦ったとして、どれだけの戦いができるのか。
せめて一太刀だけでも当てるか、もしくはその場からルーカスを動かすか。
そのどちらかができれば十分だろう。
それほどの実力差だ。
ブライトンとて無能ではない。
自分の実力は冷静に判断していたし、ルーカスの実力は見る限りまだまだ底が知れないと思った。
何と言っても彼は全く本気を出していないのだから。
勝敗はすでに決しているようなものだが、しかしブライトンは思ったよりもこの試合を楽しみにしている自分に気づいていた。
最近ではあまり感じたことのなかった、自分よりも実力の上の者に挑んでいく高揚感。
一人だけの控室でどんな戦術で戦うかを頭の中でシミュレーションする。
決勝の時間は、もうそこに迫っていた。
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