第5話 当主と義弟<2>ー嫉妬ー
「ノエほど姉さんの護衛に向いている人はいないと思うよ」
イリアの言葉にルーカスは目線で続きを促す。
「どんな護衛騎士も護衛対象者をちゃんと守ってくれると思うけど…命懸けで守ってくれる騎士っていそうで案外いないんだよね。その点ノエは心配ないから」
つまり、ノエはその命をかけてもアリシアを守る。
それぐらいの気持ちをアリシアに対して抱いているということだ。
それはアリシアを守る上で喜ばしいことではあるものの、逆にそれほどの気持ちを持つ人物が常にアリシアの側にいるという点においてルーカスにとっては心配なことでもあった。
ましてやノエは輝かんばかりの整った容姿に立派な体躯の美丈夫だ。
アリシアは人の良し悪しを容姿で決めることはないが、それでもルーカスは心穏やかではいられない。
「ダメだよ」
ルーカスの葛藤を見越したのか、イリアが言う。
「姉さんを確実に守れるのはノエだけなんだから、護衛から外しちゃダメだよ」
「イリア?」
真剣な顔で真っ直ぐな視線を向けられて、ルーカスはほんの僅か怯んだ。
「大丈夫、たしかに好意はあるかもしれないけど、それ以上に敬意があるから。だから、ノエが踏み込むことはない」
そこまで言うと一転して笑顔を浮かべ、イリアは続ける。
「姉さんはルーカス兄一筋だし、何も心配することはないでしょ?」
「だいたいさぁ、忠犬から主を奪ったら怖いだけだからね」
忠犬…その言葉を口の中で転がして、違和感にルーカスは顔を顰めた。
「忠犬だよ。姉さんがいる限り、ノエは立派な忠犬でいられるんだから」
それは裏を返したらアリシアがいなくなったら忠犬は狂犬になるのでは…そう思ったものの、ルーカスは賢明にもそのことを口に出さなかった。
「アリシアが、結婚の際に専属侍女のタラッサと専属護衛のノエを連れて来たいと言っていたが、その希望は叶えたほうがいいということだな」
「少なくとも僕はそう思うってこと」
「そうか…」
きっとイリアの言うことは正しい。
ルーカスとしても一番大事なのはアリシアの安全だから。
それなら自分のこの気持ちは呑み込むべきものなのだろう。
自身が感じた感情が『嫉妬』だということを、ルーカスが自覚するのはもう少し先のことだった。
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