神様の殺し方

ハブラシ

七不思議の呪い

第1話 走馬灯

 モノクロの世界で横断歩道とその周りに住宅街が視えた。

 ハチミリのフィルムの様に、視界に縦線がよぎって落ち着かない。一昔前の映画とも例えられる。

空も白黒モノクロなので分かりづらいが、ちょうど日が傾き始めた頃、学生達が学校の授業を終えて下校を始める頃だろうか。

 横断歩道から少し離れると、黒いモヤが街を覆っている。どうやらこの先には進めない。

 住宅街に人気ひとけは無かったが、横断歩道の側に五人の人影が見えた。




 一人は小学生の男の子だ。

 下校途中だろうか、ランドセルと給食袋を背負って退屈そうに信号を待っている。


 一人は眼鏡をかけた人相の悪そうなサラリーマン。

 連日の仕事疲れからか、気だるげで、スーツもどこかクタっている。


 一人は唯一向こう岸から渡ろうとしているお婆さん。

 買い物帰りらしく、レジ袋を両手にぶら下げて、その袋の中から野菜がはみ出していた。


 一人は女子高生のようだった。制服を着ているので分かりやすい。

 彼女には色が付いていた。

 長い髪が風に揺れているが、本人は気にもせず道路脇に突っ立っている。


 最後の一人は同じく高校生くらいの少年だった。

 彼にも色が付いていたが、白い髪に紫色の瞳、さらに右目に眼帯を付けていて、少し変わった見た目をしている。

 そしてその少年は他の誰にも視えていないらしい。赤信号の横断歩道を堂々とふらついても、誰も気づかない、見ていない。



 白髪の少年は横断歩道から少し離れた場所で立ち止まった。車道の真ん中なので横断歩道全体がよく見渡せる。 視界のチラ付きは相変わらずだが。


 なんてこと無い、顔も知らない人同士の日常が一瞬交わっただけの光景だった。

 これから彼らは家に帰る、友達と遊ぶ、各々おのおのの日常を過ごすはずだった。



 少年が立ち止まって数秒は特に変化は起きなかったが、しばらくして明確な変化が起きた。


 カッコー、カッコーとチャイムが鳴り信号が変わった。歩行者用信号、車両用信号ともに発光部分にだけ色が付いているので分かりやすい。

 小学生の男の子は溜めていた力を一気に放出するかのように駆け出して、あっという間に信号を渡ってしまった。

 サラリーマンも何か急いでいるのか、足早にさっさと渡りきって角を曲がり、見えなくなった。

 お婆さんは荷物が重かったのか、信号を渡らずレジ袋を地面に置いて肩を揉んでいる。 

 女子高生は少し足が遅いこともあって、一人横断歩道に取り残された。


 その直後、起こった悲劇をあの時誰が予想できたろうか。いや、想像出来ていればこんなことにはならなかっただろう。




 一台の影が横断歩道に突っ込んで来て、彼女は跳ね飛ばされた。

 モノクロの世界に鮮やかな赤を撒き散らしながら、彼女は宙を舞った。

 

 「ひゃああああぁぁぁぁ!!!」

 お婆さんは恐怖のあまり腰を抜かして座り込んでいる。

 先程早足で通り去ったサラリーマンも何事かと戻ってきて、その惨状に絶句した。

 トラックは明後日の向きを向いて停止しており、普段の力強さもこの空気に飲まれて失われている。

 そんな中でも、信号のチャイムだけは寸分の狂いもなくいつものメロディーを鳴らしている。


 彼女は真っ赤になって車道を転がり…少年の足元で停止した。あまりにもピッタリと。

 少年は淡々と事故の様子と赤く染まった惨状を眺めていた。まるでこの事故が起こることを知っていたかのように。

 

 事故現場と化した横断歩道に相変わらず、だがどこか不気味にチャイムは鳴り続けている。

 少年は真っ赤になった彼女を見つめて小さくため息をついた。

 「まぁこんなんで分かったら苦労しねぇよな…」

 

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