第2章 コスモス隕石とカオス隕石の予言

 4月末の晩、薙さんは夕食を引き上げるために、わざわざ私たちの部屋に入った。


「どうやった、晩ご飯は美味しかった?」

「あ、はい。美味しかったのですが何故わざわざこの部屋に来てくれたのですか?」

  私は後ろを振り返る。


「ああ、みんなにこの寮には“隕石”と言うものがあることを伝えに来たのよ」

「いっ……隕石!?」

 私たちはその言葉に驚きの反応をする。


「そうなの。実際には2つの隕石があるけど、これらは学生寮を建てた人が大宇宙から取ってきたらしくってね。自分自身も誰が建てたのかは知らないの」

「そうなんですか。で、2つの隕石の名前は何て言うのですか?」

 貴弘はあぐらをかいて手のひらで顎を支える。


「コスモス隕石とカオス隕石よ」


「なんか神秘的な名前ですね――」

 紗理の目はかすかに輝く。


「まあ、そんな物質があるから興味を持ったら様子を見てみてね」

「わかりました、ありがとうございます」

 私たちがお礼を言ったあと、薙さんは4人分の茶碗とお椀と箸、そして海老フライが盛りつけられていた皿を重ねて部屋を出た。



 5月上旬の土曜日、私たちは寮内を散策することにした。朝食を食べてから約30分が経ったころだ。


「そう言えば、薙さんが“コスモス隕石”と“カオス隕石”が存在するって言ってたよね?」

 私は脇を挙げて不思議な感じで廊下を歩く。


「あー、そんなこと言ってたなあ。俺も気になるし行ってみようか」

 貴弘は駆け足でひたすら先を急ぐ。


 ちょっと待ってー!と私を含む3人は速歩きで彼を追った。



 時は10時23分、若干怪しい紫色をした扉を押し開ける。巨大な銀河や数々の星を背景に、2つの隕石が隣り合った状態で半球型のアクリルで囲まれた20センチほどの隕石が存在する。


 1つは向かって左側、パール色に輝くなめらかな隕石、一方は真っ黒に光るゴツゴツした不規則な形の隕石がちょうど良い具合で宙に浮いている。


「これか――コスモス隕石とカオス隕石と言う名の伝説の石――」

 紗理は冷静な目で2つの物体と目線を合わせる。


 私たちは2つの隕石に近寄った。


「確か、コスモス隕石とカオス隕石のイミ、聞いてなかったはず……」

 侑馬は隕石から目をそらす。


 その瞬間、「私はコスモス隕石よ」とケースの中から話し声が聞こえた。


「い……隕石が喋った!」

 私たちは驚いて一歩下がる。


「名の由来は、宇宙が出来た後に宇宙を舞う粉塵が固まって出来たの」


「なるほどね。つまり、秩序と調和を持つ世界、そんな意味が込められているってわけか」

 私は偶然ポケットの中に入れていた電子辞書でコスモスの意味を調べる。


「僕はカオス隕石。宇宙が形成される以前の秩序のない状態で形成されたのさ」


「それでこんな名前だったんだ……」

 貴弘は納得して頷く。



 あれから3分、この部屋に見覚えのある男女2人組が侵入した。


「ああ、未久みく、久しぶり!そして、殊琳しゅりも!」私は大きく手を振って目を輝かすと「ねぇ、誰なの?」紗理は私の耳元でささやく。


 中学時代の同期だよ、と私が言ったあと、2人は自己紹介をする。


「そうよ。ウチが亜依の元クラスメイト、愛枝あいえだ 未久。先月からこの学生寮で暮らしているの」

「僕も愛枝と同じく福田の3年前のクラスメイト、芝本しばもと 殊琳。よろしくな」


 その後、侑馬たちの自己紹介を終えたあと、コスモス隕石は喋り始めた。


「実はね、近いうちにこの学生寮で問題が起こりそうなの」

「問題?こんなに良い学生寮が?」

 私はコスモス隕石を眺める。


「よく聞いておくんだよ。君たち、気づいていないだろうけど、この学生寮は計500人の者が住んでいる。この中に、中学生が住んでいるかもしれないし、小学生が住んでいる可能性も考えられないことはない。そこで、君たちは“住所”など、大切な情報を店員から聞いたか?」


「いや、それは……」

 貴弘はカオス隕石から究極の質問を聞かされて首をかしげる。


「でしょ。と言うことは、児童がなかなか自宅に帰って来ていなかったら、両親が困るし、携帯電話を持っている子が少ないはず。だから、親はどうしようもない。唯一この学生寮の欠点は“大人には見えない”ことなのよ」


 コスモス隕石は美しい声で言う。


「あー、そっか。それは困ったなあ。しかも、何故このようなつくりにしたんだろうな」

 侑馬は腕を組んでよく考えるが、答えは何も思い浮かばない。


「まぁ、私は親に連絡しているから良いねんけど、ちびっ子だったら……」

 私はうつむく。


「店を歩き回っていたら、不思議な空間に好奇心を持ってこの寮に入ってしまうケースも考えられるよね」

 未久も私と同じように床を見る。


「よく気づいたね。だから、いつかこんなことが起こるかもしれないから気をつけるんだよ」


「はい、わかりました」

 私たちは真剣な目でカオス隕石を見つめる。



 私たちは南京錠で守られた隕石を背に部屋を出た。


「思ったけど、何で高校生の私たちに言ったんだろうね」

「それは知らんけど、お前らもこんな目に遭うかもしれないから注意しろよと言いたかったんだよ、きっと」

 紗理は腕を組む。


「でもさ、おいらは高校生なんだぜ。そんな馬鹿げたことが起こるとでも思ったんかなあ」

 侑馬は馬鹿にすんなよという表情を作る。


「ま、わからんけどもうすぐ昼飯の時間だから1回自分の部屋に戻ろーぜ」

 貴弘はやれやれと思いながら自分の部屋に向かった。


「うん、お腹すいたし、またどっかで会おうな」

 殊琳は敬礼した。



 果たして、この予言は本当に的中するのだろうか?

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