第10話 突入


 ロベリアは確信した。目の前の男がニコラ・ド・ドモンジョだ。太刀を抜き、男に斬り込む。彼女の名刀ケヤラ・リン・ラロンドがドモンジョの首を斜めに斬り飛ばした。驚いた男の顔が絨毯に転がって、切断部から液体が流れる。同じく倒れた胴体からも吹き出した。異臭がした。そしてロベリアは気づく。噴射する飛沫は、赤色ではなかった。


「油だ!」


 兄のルークが叫ぶ。ルークはもちろん、ロベリアも血塗れになるのは馴れている。しかし彼女は油を被った。しまった、と思った瞬間、男の頭部と胴体が赤く光り、爆発した。一瞬でロベリアは炎につつまれた。



「ロベリア!」ルークが駆け寄り、火だるまの妹に手をかざした。「放水魔法ウォーター


 彼の掌から水が吹き出して、ロベリアの炎を消火した。ルークにも扱える程度の、初歩的な水属性の魔法だ。バケツから水をぶちまける程度の威力だが、何度も行使して妹を救い出す。


「冷たいですわ」ロベリアがいった。今度は水浸しになって倒れているが、彼女は無事だった。咄嗟に、防御魔法ミラージュで爆風の衝撃から身を護ったのだ。さらに防火魔法サラリも展開していた。


 だが、防火魔法サラリは少しだけ遅かった。ロベリアの衣服の袖が燃え、右腕に痛々しい火傷の後ができていた。

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