第14話 狩猟大会
姉のイレザからの手紙を読んだ。
狩猟大会……行けばウィステリアの乳母の形見が手に入る……と。
行くべきか、この体の本来の持ち主のウィステリアの為に。
そっとブラード公爵領にお墓を作って、一緒に埋めてあげるとか。
いや、ウィステリアの体は生きてるから髪だけでも一部切って。
「公爵様……エドも行かれるなら、大丈夫よね」
「奥様? どこに行かれるのですか?」
「狩猟大会」
「魔物がでる危険なところでは」
「その魔物を狩る大会なのでしょう」
まあ私は貴族のくせに魔力無しだし、心配されても仕方ないわね。
かくして私はエドの帰宅を待った。
結果は他国の貴賓の前で狩猟大会に誘われて断れなかったそうだ。
ほぼ引きこもりだったのに、そういうこともあるのね。
でもやはり仮面はつけたまま参加するらしい。
「ウィステリア、危険ですのであなたは家にいてください」
「駄目です、私が行かないと乳母の形見が手に入らないので」
「……」
エドは盛大なため息をついた。
どうしても同行すると言い張る私に折れてくれた。
* * *
ここは異世界、魔法の存在するファンタジー世界。
基本的に魔力を持つ貴族が社会的な地位を確立する。
しかし、極稀に魔力を持たぬ貴族も存在し、彼らは差別と虐待に苦しむことが多いという。
私ことウィステリアも魔力を持たぬまま、化け物公爵と呼ばれるエドラールと結婚し、公爵夫人となった。
だから名ばかりだと下に見る者も多いだろう。
だけど実家の姉からは乳母の形見を餌に私を呼び出そうとしている手紙が届いた。
この狩猟大会は各地の貴族男性が参加し、森に潜む魔獣を狩り、その力を見せつけ、権威を示すものであり、魔物がいるから当然事故もある。
事故に見せかけた攻撃や暗殺の懸念もあるから、油断はしないでおく。
私はとりあえず狩猟大会までにほのかの小説を書き上げた。
公爵のエドが本にしてくれるらしいから、それを信じる。
***
そして、狩猟大会当日。
私達は会場たる鬱蒼とした森に到着した。
参加者ではない応援の御婦人達はテントで待機することになる。
姉の姿はまだない。
自分で誘っておいて遅刻とかどういうつもり?
なんか貴族の偉い人のアナウンスの後に狩猟大会が開幕!
これから貴族男性たる彼らは様々な魔獣に立ち向かいながら、個々の技と力を発揮する。
「あれが、ブラード公爵か」
「凄い魔力量だ」
「この期に及んでまだ顔を隠すのか」
仮面の公爵の姿には、畏怖と好奇の目があった。
◆◆◆ エドラール公爵サイド ◆◆◆
『いたぞ、化け物公爵だ、魔物を誘う仕掛けはどうだ?』
『それはもちろんぬかりない』
『化け物公爵のおかげでグルズイ子爵が処され、利権がだいなしだ』
『仕事の旨味が無くなるのは本当に厄介だ』
『魔物が始末をつけてくれたらいいが、無理な場合は……』
『ああ、挟撃だ』
茂みの奥から不穏な声が聞こえた。
どうやらそこに潜む輩が私を事故に見せかけて殺したいようだ。
とにかく魔獣が近くにいたらさっさと倒してしまおう。
挟撃されないように。
そしてなるべく早くウィステリアの元に帰らねば。
黒く大きな熊が出た。
すかさず氷の槍で魔獣の体を穿っていく。
背後に魔力の気配!
『シールド!!』
背後からの魔弾が私の魔力シールドにぶつかって炸裂音がした。
『ちっ! 仕損じた!』
『まだだ! もう一発!!』
バシュッ!!
またシールドで防御した。
また茂みの影からコソコソと……。
『駄目だ! 圧倒的に魔力量が違うせいで簡単に防がれる!』
『一時撤退を?』
『いや、テントの方に公爵夫人が来ているとベルターニ伯爵令嬢が言っていた』
!!
まさか、私だけでなく、ウィステリアまで狙ってるのか!
私は魔力の突風を巻き起こし、それに乗って飛んだ!!
ウィステリア! 無事でいてくれ!
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